プロローグ
ついに始まりました、今年のメイン企画。
今回の主人公は、プレイヤーキャラ以外からの参戦。一応名前だけは取ったけどね。
さて……本当に今年中に終わるのかしら……?
第一話は、近日公開予定。
<運命の赤い糸> プロローグ
窓から見える空は、綺麗な夜空だった。
冬の鉄火山は、空気が澄んでいる、周りに余計な光がない、空にちょっとだけ近い……いろいろな理由があって、空は無数の星でいっぱいになる。
「……すまないな、君たちに任せるしかないようだ」
そう言ったのは、親父だ。まだ、かすかに覚えている親父の声。俺はシェルターの隅っこに座っていて、ボーっと窓の外を見上げていた。
「追っ手はどうするつもり?」
今度は女性の声。少し高めで、どこか軽い感じがした。本人の性格が本当に軽いのかどうかは知らないが……なんていうのかな、ドコとなく絶対的な余裕を感じさせる、フシギな声だった。
「私が何とかしよう。何も知らないアイアンサウスの騎士たちだ。君たちが出て行っては話がこじれる」
親父がそう答えた。ちょっと震えたような声だったと思う。
「……いいんだな?」
これは、青年の声だ。親父よりも高く、若々しい感じがした。だが、女性のほうのような軽さは感じない。落ち着いた感じはしたが。
「いや、本来はすべて私がやらなければならないことだ。アイアンサウスのことも、この子達のことも……」
ふと視線を感じて、窓から親父たちのほうを見た。親父がこっちを見ている。どんな表情だったのかは……そこまでは覚えてない。アイアンサウスの軍服がすごく似合っていてかっこよかったことは覚えている。
その親父のそばにいるのが、さっきから聞こえていた声の主たちだ。女性と青年。
女性のほうはゆったりとした、ものすごく袖の長いオレンジのコートを着ていて、黒髪もかなり長い。その表情は、ドコとなく曇っていたように思える。
青年は、金色の髪がすごいくせっ毛だった。口元が隠れるぐらいの大きなマフラーをしていたのが印象的だった。
「アクロポリスまで行けば、知人が運営している孤児院がある。事前に話はできているから、この子達をそこまで送り届けてほしい」
親父が、何か紙切れを青年に渡した。
「そこは安全なの?」
その紙を覗き込むようにして、女性。
「ああ、色々、複雑な事情を抱えている子供を預かっているようで、出資元は『クレッセントフィールド家』らしい。アイアンサウスの上層部とはいえ、おいそれと探りを入れられないところだ」
「御三家のお膝元、って感じか。分かった。ここに連れて行けばいいんだな」
青年が紙を確認して、懐に入れた。
「ああ、すまない……セイ殿」
「いいって。コレも仕事のうち。冒険者はナンデモ屋さ」
親父にセイと呼ばれた青年は、少しだけ笑みを浮かべて肩をすくめる。それを見て、女性のほうも少しだけ表情を緩ませた。
「……では、私は追っ手のほうを何とかしてみる」
「ああ、分かった……こっちは任せておけ。『大賢人セイ』の名に懸けて、この二人は絶対にアクロポリスに送り届ける」
「すまない……」
そう言って、親父がシェルターから出て行った。『どこへ行くの?』って言いかけたけど、それが言葉になる前に親父は見えなくなってしまっていた。
そのとき……手に、暖かい感触がした。
「ねぇ、ルカリオ……本当にコレでいいのかしら?」
「ん? 何が?」
ふと、視線を横に向ける。実は、ずっと隣に誰かいたんだ。
「私たちがちょっちょっちょって出しゃ張れば、全部解決するんじゃないの?」
「そりゃ、そうかもしれんな」
暖かい感触は、手の感触。隣の少女が、俺の手を握っていた。癖のある銀髪が、窓からもれる星の光でキラキラと光る。
「そうかもしれんなって、じゃあそっちのほうがいいじゃない。そっちのほうが簡単そう」
「物事が解決すればいいってもんじゃないんだよ。コレはアイアンサウスの問題だ。よそ者の俺たちが為すべきことじゃない」
小さな小さな少女は、俯いたまま……
「貴方はいつもそう。よく分からないわ、難しすぎて。私は簡単なのが好き」
「だから、お前は『最悪の魔女』なんて呼ばれるんだよ、風奈。いいか……」
綺麗な夜空の下、寒いシェルターの中……それだけが色鮮やかに残る記憶の中、俺は思ったんだ。
「人間には、為すべき義務がある。俺には俺の、お前にはお前の……そして、これはあの人が為すべき義務だ」
人間には、為すべき義務がある。その言葉が、やけに頭に残る。
人間には、為すべき義務がある。ならば、俺は……俺の義務は。
by sei_aley
| 2011-01-17 00:35
| ECO小説<運命の赤い糸>