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月明かりの射す静かな庭

noblemoon.exblog.jp

ECOのフリージアサーバに生息中。現在の企画→ECO小説<運命の赤い糸>

クリステン君の神崎家訪問 3

最終回……になるといいなぁ。と思ったけど、文字数制限でもう一回あるよ! よ!


Q:勇実さんはレンジャー系なのですか?

勇実:いいえ、私はファーマー系でした。

クリステン:ええ!!!? じゃ、鞭は!!!?

勇実:こんなものがありまして(ブリーダーブローチ

クリステン:意味ねぇ!!? 超意味ねぇ!!

勇実:鞭ってかっこいいじゃないですか。こう、相手をじわじわといたぶれるし。縛り付けてひざまづかせるのもいいですよね、フフフ

クリステン:@@;

永久奈:アハハ、勇実さん、変わりませんねぇ

クリステン:こんな危険メイド、クビにしろ……





クリステン君の神崎家訪問 3

 おばあちゃんが好きだった。
 偉そうなおばさんやおじさんが、おばあちゃんの前だと大人しくなるから。おばあちゃんは偉いんだ。何でも知っているし、優しいし、かっこいい!
 おばあちゃんはよくお話してくれた。おばあちゃんは昔、「ぼうけんしゃ」ってものになりたかったらしい。私が、私も冒険者になりたい! って言ったら、おばあちゃんは喜んでくれた。
 だから私は……冒険者になったんだ。
 でも、世の中は私が思っているよりもずっと厳しくって。
 とりあえず、とりあえずって自分をごまかしながら何とかやってきたけれど、本当は私は気づいていたんだ、最初っから。
 冒険者なんてつまらない。思い描いていた夢なんてなかった。
 窮屈な家から出られたのは少し開放感があったけど。
 少しは友達ができたけど。
 お礼を言われるようなこともしたけれど。
 期待したような輝かしい日々なんてなかった。普通の生活と同じ。おばあちゃんから聞いていた夢の話が、ただの井戸端会議の喧騒になった気がして、ひどくいやな気分になった。

『もう帰ろう。お土産話ができるくらいには、私も頑張ったよね……?』

 そんなときだった。『彼』と出会ったのは。
 最初は知人の紹介だった……いや、正確には知人の知人。知り合いの冒険者が、よく仕事をもらうって言うアクロポリスの評議員さんからの紹介だった。紫の髪をした……最初はちょっと怖いと感じるくらい、厳しい顔をしていたなって覚えている。一人で冒険者も大変だろうから、一緒に活動してみたらどうだって議員さんに言われた。
 正直に言うとね、嫌だったんだ。だって、もう帰ろうと思ったいたんだもの。でも、断れなかった。そのときは、自分の意見を言えないことに自己嫌悪したりもした。
 それからの毎日は、すごかった。
 いろいろなところに連れて行かれた。『彼』は、その議員さんから大量に仕事をもらっているようで、私もめちゃくちゃにこき使われた。一気に時間のスピードが速くなって、ベッドに倒れこむとすぐ寝ちゃうようになった。前は、不安になるぐらい寝つきが悪かったのに。
 初めて大陸のダンジョンに連れて行かれた。モックーの魔法で死に掛けた。
 初めて氷結の坑道に連れて行かれた。デスに追い掛け回されて死に掛けた。
 初めて廃炭鉱に連れて行かれた。ブラックベアに頭を打たれて死に掛けた。『彼』が本気で心配してくれたので、それはうれしかった。
 初めてノーザンダンジョンに連れて行かれた。使い魔の毒攻撃で死に掛けた。
 初めて……初めて……それまでの冒険者の生活がなんだったのかと思うほど、楽しかった。確かにいっぱい危険な目にあったし、いたい思いもしたし、嫌な思いもした。出会い、別れた。その中には、永遠の別れとなってしまった人もいた……
 でも、『親友』も『仲間』もできて、本の中でしか見たことがないような綺麗な風景もいっぱい見れた。
 ノーザンの氷が、どれだけ透き通ってるか知ってる?
 光の塔の天辺からは、アクロポリスが見えるんだよ?
 トンカにはかわいいお人形さんがてきぱき働いていて、アイアンサウスの鉄火山は本当に大きいんだから! マグマと海が交差するところ、見たことがある? 本当に綺麗なの。
 不思議な場所へと繋がる虹の道は?
 世界を飲んじゃう鯨っていると思う?
 夜のマイマイには、とっても大きいドラゴがいるの!
 天まで続く塔にも大きなドラゴンがいるんだよ。
 タイタニア界の海は本当に綺麗なんだから!
 おばあちゃん、おばあちゃんの言っていたこと、全部本当だったよ。『彼』が教えてくれた。一緒に歩いてくれた。だから私はきっと、今、笑顔でいられるんだ。
 そして、だからこそ。
 私はあなたを笑顔にしたい。ずっと一緒にいたい。私があなたからもらった大切なモノがあるように、私もあなたに大切なモノをあげたい。
 私が一緒にいることで、あなたの心が少しでも潤うのなら、救われるのなら、満たされるのなら……私はずっとあなたと一緒にいます。
 たとえその結果……世界のすべてを敵に回したとしても……あなたはきっと、不敵に笑うから。私も一緒に『世界の敵』になりましょう。

 愛しています。これからもずっと一緒にいてください。


 クリステンは、神崎家のメイド長である大森勇実を前にして冷や汗を流していた。
 大森勇実は、応接間中央のテーブルの上に立っている。クリステン、永久奈、ドミニオンドラゴンが座っていた椅子はすべてあっちこっちへと転がっていて、ちゃんと座っているのは……勇実の向こうの、神崎永奈……ただ一人。
 クリステンが全力を出せば、おそらく勇実には勝てる。が……その時は、神崎家の屋敷も一緒に吹き飛ぶ。シャーマン系列のスキルはどれも威力が高すぎて、周りに甚大な被害が出てしまうからだ。
 もしここがただっひろい平原のど真ん中であれば……そう願ったとしても、その平原のど真ん中に立つ神崎家本館は消えたりしない。
 対する勇実にとっては、この場所は実に戦いやすい場所である。彼女の持つ武器は鞭。全力で振り回せば広範囲に影響が出るが、操る長さを調節してやれば接近戦でも十分威力を出せる。
「どうです、クリステンさんとやら……もう降参なさっては?」
 永奈がクリステンに向かってそう言った。穏やかな笑みには絶対の自信が見て取れる。相当勇実の実力に信頼を置いているらしい。
 対してクリステンは、ちっと舌打ちをして、
「なめるなと言ったろう。それに、いかに神崎家とはいえ、一般人にこんなことをしていいと思っているのか?」
「あらあら? うちの次期当主を寝取った人にいわれたくはありませんわ。それに大丈夫。ここは神崎家の敷地内。このことは外には漏れませんわ♪」
 げっそりとした気分になった。アルシアにもいわれたが、この家は意外とえぐい。
「お、おばあちゃん! もうこんなことはやめてください!!」
 クリステンによってドミニオンドラゴン側に突き飛ばされていた永久奈。なんとかドミニオンドラゴンに支えながらよろよろと立ち上がる。
「永久奈。あなたもあなたですよ。あなたの気持ちを尊重して中央へやったのに……こんなことになって帰ってくるとはね。神埼はファーイーストを背負って立つ家。あなたにもその自覚が必要よ」
「……私は、別に神埼のすべてを裏切ったわけじゃない! おばあちゃんもお母さんも大好きだし、神埼がファーイーストにとってどれだけ大事かも……中央にいって、前よりも強く感じてる! 私が次期当主になることで……それが神埼の……ファーイーストのためになるっていうんならなります! でも……そのために、私自身の気持ちを裏切ることができない!!」
 強く祖母を見つめる孫、永久奈。祖母、永奈もその視線を受け止め、それでも笑顔を保っている。
「どうやら、議論をしてもあまり歩み寄る余地はないようね。勇実、遠慮は要らないわ」
「はい、おばあさま」
 勇実が改めて鞭を構える。隙のないその構えは、決して彼女が並みの実力ではないことを示していた。
(大森勇実……とかいったな。あんまり聞いたことがない名前だが……油断はできねぇな……)
 すでに先に交わした攻防で、クリステンも彼女の実力は認識している。だが、あまり強力な術も使えない……ならば、やはりまずは相手にも同じ状況になってもらおう。
「……!」
 トンと、本当に小さな音がして、勇実がこちらに向かって踏み込んでくる。短めに調整された鞭が迫る。完全にクリステンのみを狙っているようだ。ずるりとクリステンに向かってくる鞭を永久奈たちとは逆方向へ逃げてかわす。勇実の視線もそれを追っていた。
 勇実がクリステンのほうへと切り返してくる。放った鞭をもう一度自分のほうへと引き寄せた。
「ファイアーボール!」
 その隙を見逃さず、クリステンが魔法を展開。指差した勇実の方へ、小さな火球が生まれ放たれる。本来ならばもっと大きく、この部屋を大火事にするほどの威力があるのだが……手加減せざるを得ない状況ではこれが精一杯だ。
「……フッ!」
 勇実は、その火球をすさまじい脚力を使って跳躍して回避。その跳躍は大きく、そのままクリステンの上すら通り過ぎようとする。そんな体勢でも、第二撃目を打つ勇実。体勢が悪いためスピードは遅いが……確実にクリステンへと向かってくる。対して、クリステンは魔法を打った反動で完全な回避が取れない。だが……口と手を動かすぐらいはできる!
「アースオーラ!」
 先ほど、勇実の蹴りを防御した魔法。先のファイアーボールが下級魔法とはいえ、こうも連続して打てるのかと勇実は素直に感心した。だが、それは逆に魔法による防御がなければ勇実の攻撃を防げないことを意味している。身体的な能力……場の優位性は完全に勇実に分があるのだ。
 この二撃目も防がれるだろう。だが、はじかれ方によってはすぐに三撃目、四撃目を放てる。防御魔法で、クリステンの機動力は0になったと言ってもよい。その間に連続攻撃を加え続けていけば、いずれ魔法が持たなくなる!
(この勝負は私の勝ちよ……!)
 勝利を確信した勇実。二撃目の鞭がクリステンに迫る。さぁ、はじくならはじくがいい。その後、防戦一方になったあなたを嬲ってあげる。
 だが、クリステンの周囲にあの緑の防御魔法が展開されない。さらに迫る鞭。これでは当たる……!?
 とっさに、勇実は鞭を引こうとしてしまった。だが……
 ズシュリ……! と、小さく、肉が切れる音がする。
「な……!?」
 驚愕の悲鳴を上げたのは勇実だった。跳躍が終わり、床に足が着く。だが……はなった鞭は帰ってこない。鞭の先端を、クリステンがつかみあげているからだ。素手で。
「馬鹿なことを……私の鞭には刃が仕込んであります。それを素手でつかめば、5本の指がすべて落ちますよ?」
 そう言い放っている勇実の方が、驚きを隠せないでいた。勇実が言ったとおり、鞭には鋭い刃が仕込んであり、鞭をつかみにかかった相手の手を傷つける効果がある。攻撃力を高めると言う意味よりも、実は『つかませない』ことに重きを置いた改造だった。
 だが、なぜだ。いくら勇実が鞭を引っ張ってもクリステンは鞭を離さない。あんなに力いっぱい握っていれば、もう指が床に落ちているはずなのに。数筋の血が流れているだけで、完全にクリステンは鞭をつかんでいる。
「どういうこと……」
 ポツリと勇実がつぶやく。不意に出た言葉に、はっとして口をつぐむ。その様子を見て、にやりとクリステンが笑った。
「俺の指が落ちるんじゃなかったのか? たいした刃じゃないようだな?」
「……」
 ぎろりと勇実がクリステンを睨む。そのとき、クリステンの手と鞭の間に……きらりと光るものを見た。緑色の光だ。
「そういう仕組みですか……先ほどの防御魔法を、自分を守るためではなく鞭を捕らえるために……その手を守るために集中展開しましたね?」
 アースオーラの防御能力を手のひらに集中展開することで、擬似的な魔法手袋を構築したと言うわけだ。なるほどこれなら、指を落とさずに鞭をつかむことができる。
「まぁな。だがさすがだな……本当なら無傷でつかむはずなんだが……アースオーラの防御を超えてくるたぁな……」
 防御を食い込み、鞭の刃がかろうじて手のひらに届いているらしい。当たり前だ、勇実の握力は約60kg。クリステンもそれぐらいの握力で鞭を握っているに違いない。そしてその刃は……うまく扱えば、人の腕も切り落とせるはずの鋭さがあるのだ。
「これでそっちの攻撃も封じたぜ……これで条件としてはトントンってところか……!」
 ぎりぎりとクリステンと勇実の間で鞭が震える。
「トントン? 確かに私の鞭をつかんだことは素直に感心しますが……それがどうしたんです? 結局あなたもそのまま動けない」
 確かに二人ともこれでは動けない。だが、クリステンには魔法がある。腕が使えずとも、攻撃する術がある。だが、勇実は平然とした顔をしている。
(まさか、こんな状況でまともな術が使えるとも思えない。それに、広範囲にわたる術はもともと地理条件で使えない。範囲の狭い限定された術……しかも100%出し切れない術なら……簡単に回避してカウンターできる。一撃でも入れられればこの均衡状態は一気に私に流れ……そのまま押し通せる!)
 結局、クリステンの分がよくなったりなどしていないのだ。このまま綱引きを続けていれば、先に根を上げるのはあちらだ。スペルユーザーごときの体力や腕力に負けるはずがない。
 だが、クリステンはにやりと笑った。
(……!)
 その笑みを見て、勇実に緊張が走る。まさか、強引に引き寄せることができるのか? あんな華奢そうな体で、そんなことができるのか!?(お前が言うな)
 思わず、勇実の体に力が入る。少し腰を落として、まさかの反撃に備えた。
「ばーか、俺が腕力であんたにかなうかよ」
 まるで勇実の心中を覗き見たかのような言葉……そしてクリステンは魔法を唱えた。
「ストーンウォール」
 基本的な初歩魔法のひとつだ。固体の物質に作用し、その形を変える。主な使用方法はそれを壁に変形させて防御する。だが、その石の壁が出現したのはクリステンの周囲ではなく……勇実の足元!
「何!!?」
 さすがに勇実が困惑で悲鳴を上げた。踏ん張っていた地面がいきなり1m近くも盛り上がった。バランスを崩し、もともと引っ張られていたクリステンのほうへと投げ出されるような形で宙に飛ぶ。
 しまった。まさかストーンウォールをこんなふうに使ってくるだなんて!!?
 なんとか、体勢を立て直そうとする。だがそこに、いつの間にかクリステンが迫っていた。
「!!?」
 右の二の腕、左の鎖骨の辺りの服を握られ、体勢を立て直す前に、そのまま背中から床にたたきつけられた。かろうじてあごを引いて後頭部は守ったが、腕を押さえられて受身が取れない。すさまじい衝撃で息が止まる。意識が飛ぶのだけは避けられたが、衝撃で体が動かない。遅れてやってきた激痛で悲鳴を上げそうになる。
 クリステンが勇実の体を離し、すくっと立ち上がる。
 その場の勝者は、誰が見ても明らかだった。

続く
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by sei_aley | 2012-05-05 22:00 | ECOショートストーリー