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月明かりの射す静かな庭

noblemoon.exblog.jp

ECOのフリージアサーバに生息中。現在の企画→ECO小説<運命の赤い糸>

事件編 ~中篇~


事件編の中篇です。間違えないように。


中篇です







<プリンの行方> 中篇



 うひゃたちのプリンとジュース、そしてロードのプレミアムプリンを冷蔵庫に入れ、セイとソラはようやく静かになったリビングでプレミアムプリンの封を開けた。
「うーん、見た目は普通のプリンだな」
「そうですねぇ」
 小さな器にはぷるんぷるんと震えるプリンが入っているだけ。別段何か変わっている様子は見受けられない。これが朝早くおきて買ってきたプリンか……そう思うと、普通に見えるこのプリンも輝いてみえるわけだが。
 いぶかしげにプリンを眺めつつスプーンを入れてみると……最初にぷるんとスプーンが沈んでいくが、やがてカツンと何かにぶち当たる。
「ん? 何か入ってる……?」
「すごーい、プリンの中にフルーツが入ってますよ!」
 救い上げてみるとそれは確かにフルーツだった。細切れにされたパイナップルがちょこんとセイの持つスプーンの上に乗っかっている。
 なるほど。シークレットというのは別の意味でこういうことも示していたのだろう。
「なかなか面白いな。固めるときに中に入れてるのかな……? あれ、そうすると下に沈むような……均等にフルーツをちりばめるには固まりかけた段階のプリンに入れているのか……それってちゃんと固まるのかな……?」
「……♪」
 ふとスプーンの向こう側のソラの顔を見ると、彼女はにっこりと微笑んでいた。
「どうしたの?」
「いや、私だったらすぐに一口食べちゃうのに、セイさんはいろいろ考えてるんだなぁとおもって……」
「……食べようか?」
「はい♪」
 二人は同時に、ぱくりとフルーツごとプリンを食べる。プリンのほんのりとした甘さと、フルーツのちょっとした酸味が実にバランスよく……簡単に言えば、おいしい。一度食べ始めると止まらないもので、セイもソラも無言でプリンを食べ進めていった。パイナップルにメロン、オレンジにブルーベリーも入っているようである。
「お、なんか下の方に大きなのがある……?」
 セイが下の方にある大きな塊を取り出してみると……それは一つ丸ごと入っていた苺だった。
「おっきな苺だぁ!」
 ソラも同じようにして取り出した苺を見て、喚起の声を上げた。やはり女の子にとって苺というのはフルーツの中でも特別なものがあるのだろうか。
「他のフルーツはいくつか入ってたけど……さすがにこれはひとつしか入って無いな」
「私苺だーいすきです♪」
 そういって、ぱくりと一口で苺を食べてしまった。実に幸せそうな笑顔を浮かべるので……セイも釣られて苺を口に運ぶ。
 ほんのりとしているがしっかりとした苺の味。そしてそれをまろやかに包み込むプリンの甘い匂い。
ふむ、早起きして……顔にしもやけを作ってまで買ったかいは確かに……
「……む」
「……? どうしたんですか? セイさん?」
 ふとセイが玄関の方を見ると……
「おいーっす、セイさんいるー?」
「あ、レーニさん?」
 そこから顔をひょっこりと出したのは、黒い髪をツインテールにした女の子……レーニだった。彼女もまた、セイの知り合いの冒険者である。
「あら、お邪魔だったかしら?」
 セイとソラ、二人の顔を見比べつつ、なんだか意味深な笑みを浮かべる。
「そんなんじゃないけど……レーニさん、なんか用?」
「なんか用って……アクロニアの鼓動ってレコード、貸してくれる約束じゃなかったっけ?」
「あ……」
 そういえば忘れていた……以前に『姉さん(アレア)が昔レコードを集めていた』ということを話したときに、『まだ聞いてない奴があるんだけど借りていい?』といわれていたのだった。
「別に私はいつでも良いんだけどね?」
 ソラを見つつ、レーニがそういった。が、ソラはぶんぶんと手を振り、
「いえいえいえ! 私は偶然ここに来る事になっただけですし……気にしないでください」
「とにかく、レコードを探してくるよ。確か、姉さんの部屋にあったはずだから」
 セイは席を立って奥の部屋に行こうとする。
「あ、セイさん。トイレ借りてもいい?」
「どうぞー、トイレは台所の奥だから」
「はいはい」
 そして、レーニもセイも奥の部屋へと行ってしまった。
「……♪」
 ソラは一人リビングでまたプリンを食べ始める。
 本当においしい。三日前から並んだかいはあった。これのために三日間もクエストを休み、どこに誘われようとも行くことなく並んだんだ。
 でも、そのプリンもあと少し……もう半分以上食べてしまった。メインディッシュの苺も早々に食べてしまったし……もうフルーツで残っているのはメロンとぶどうだけだ。
「あ……」
 そんな時、ふと目の前にセイが残していったプリンが目に飛び込んできた。
 あ、私のより残ってる……苺はもう残ってないけど、オレンジもブルーベリーも……
「……」
 ハッ! 一体何を考えてるのソラ! ダメよ、それはダメ!!! 人としてそれだけはしちゃいけないわ……!
 でも、そういえば……セイさん、ブルーベリーが苦手だったようナ……
「良いもの食べてるわね?」
「ふぇ!!?」
 いきなり背後から話しかけてきたのは、戻ってきたレーニだった。
「レーニさん……脅かさないでくださいよ」
「別に脅かしたつもりはなかったんだけど……それって、フランシーズのシークレットプリンよね?」
「え、そうですよー」
「レーニさんも知ってるの?」
 奥からセイも戻ってきた。その手には、紙に包まれた正方形の板がある。
「知ってるよ。でも、並ぶのめんどくさいしあきらめたのよね。んー、やっぱり競争率高いだけにいい匂いね……しかも、中にフルーツが入ってるんだっけ?」
 ソラの持っていたプリンを覗き込むレーニ。うんと、ソラがうなずいた。
「苺にぶどうにブルーベリーにオレンジ……よく下に沈まないものよね」
「アハハ、レーニさん、セイさんと同じ事言ってますよ?」
「ほっほー。セイさんでもその謎は分からないのかしら?」
「……俺、パティシエじゃないんだけどな」
 半眼でつぶやくように言うセイに、ソラとレーニはアハハと笑っていた。
「じゃ、レコードももらったし、私はそろそろ帰るわ。二人でラブラブにプリン食べてる姿を見せ付けられちゃ、こっちもたまったもんじゃないってものよ」
「そ、そんなラブラブなんて……!」
「アハハ、ソラちゃんはかわいいなぁ。でも、あんまり見せ付けてるとセイさんの彼女に殺されちゃうよぉ?」
「はわわ……それは勘弁です……」
「お前ら……うちのエニアをどっかの破壊神か邪神と間違えて……いや、あながち間違いでも無いけどさ……」
 大きくため息をつくセイに、二人の笑顔も苦笑いへと変わっていく。
「アハハ、セイさんも苦労してそうだね」
「そこは察してもらうと言うことで……でも、可愛いところもあるんだぜ?」
「のろけ話は今度聞いてあげるよ。じゃ、またいにー」


「結構おいしかったですねぇ」
「ふむ、最近のお菓子もなかなか侮れないな」
 フランシーズのプリンを食べ終わり、セイとソラはコップに注がれているお茶を飲んでいた。季節は夏真っ盛り。飛空庭はかなり上空まで飛べるため、地上よりは涼しいのだがそれでも日差しは強く、冷たいお茶は気持ちよくのどを通る。
「こんなにおいしいなら定期的にフランシーズに通ってみようかな」
「アハハ、セイさんもすっかりフランシーズの虜ですね」
「人気が出るのも分かるよ。今度はエニアや姉さんの分も買って……ぬ」
 そのとき、ふとセイの表情が厳しくなった。
「?」
「ソラさん、この後用事ある?」
「え? いえ、特にないですけど……」
 ええ? これってどういう意味? も、もしかしてデートのお誘いとか?? そ、そんな……私とセイさん、そんなに親しいわけじゃ……でもでも、今日は飛空庭にまでお邪魔しちゃって……
「俺、ちょっと出かける用事ができちゃったから……その間留守番してもらってていいかな?」
 無碍に断るのもあれだし……でもでも、デートしているところをセイさんの彼女に見られたら……え?
「え? ええ?」
「悪いとは思うんだけど……ほんの数十分だと思うから……ロードも寝ちゃってるし、起こすのもなんだか悪いしさ、だめかな?」
「あ、はい! 大丈夫です! そう、ですよね! あ、アハハ!」
「?」
「いえ、なんでもないです! 留守番してます! はい! でも、どこに行くんですか?」
 そのとき、また誰かが玄関から入ってくる。金髪のくせっ毛をショートカットにして、きっちりとしたスーツに身を包んだ女性だった。また女の人……セイさんの周りはなんだか女の人が多いなぁ……
「セイ様、こんにちは。アルシア様がお呼びになっていらっしゃいますので……ご一緒に来ていただけますか?」
「分かったよ、ウォレンさん。すぐに行くから、外で待っててもらってもいい?」
「了解しました。いつもいつも急な呼び出しで申し訳ありませんね」
「文句はアルシアに直接言うよ」
「そうしていただけると助かりますわ。アルシア様、最近セイ様が顔をお出しにならないもので、ずっと不機嫌なんです」
「……寂しがりなところは意外と変わってないな、あいつ」
 アハハと笑顔で、ウォレンと呼ばれた女性は一礼だけして飛空庭から出て行く。
「……お仕事ですか?」
 アルシア。アルシア=クレッセントフィールド。現在、アクロポリス評議会でもトップクラスの権力を持つ議員だ。
「多分ねぇ。アルシアの仕事は給料いいけど、しんどいのが多いからいやだな……」
 苦笑いでそう言うセイは、まんざらでもないような雰囲気だった。まるで、恋人のわがままに付き合ってあげているような……そんな感じ。
「じゃ、話だけ聞いてすぐに戻ってくるよ。もし何か用事ができて留守番ができなくなったらロードを起こしていってくれればいいから。よろしくね」
「はい。お仕事がんばってください」
「お昼までには戻ってくるよ。そうしたら、留守番のお礼にお昼をおごるから」
「え、別に……」
「じゃ、いってくるから」
 あわただしく外へ出て行くセイ。ぽつんと、ソラだけが取り残された。
「ふぅ……」
 そういえば、三日前からフランシーズの店の前に座っていたんだった。そう思い出すと、急にどっと疲れが出てきた。セイさんには悪いけど、帰ってきたらすぐにおいとましてお風呂に入って寝よう……よくよく考えたら髪もぼさぼさじゃないか、こんな髪の毛で町を歩いてたなんて……
「……うぅ」
 そうだ……明日からまたクエストしないといけないから、酒場のほうにも顔を出して……あぁ、露天もこのごろチェックしてないや……まだまだやることはたくさん……
「……zzZZ」
 セイが飛空庭から出かけていって数分後、あっけなくソラの意識は深い深い夢の中へと落ちていった。


「……ラさん?」
 ん……? 誰……?
「……さん? ……ったな、れも……かに、いのかな?」
「……ん?」
 ふと目を覚ます。目の前には自分の飲みかけのコップ……すっかり中の氷が解けて、結露した水が自分の顔のすぐ目の前まで流れてきていた。
「あれ……ここは??」
「そらさーん、大丈夫?」
「ふぇ?」
 テーブルに突っ伏していた体を起こして声の主を見ると、そこにたっていたのは赤いドレスのような服に身を包み、ネコ耳の付いた帽子をかぶっている女性だった。
「よ、宵夢さん!?」
 それは、ファーマーの宵夢だった。彼女も冒険者なのだが……副業としていろいろなアルバイトをやっている。確か最近は……
「ピザ……?」
 テーブルの上には、すでにさまざまなピザの箱が並べられていた。
「あれれ? 何ですか、このピザ??」
「何って、僕達のお昼ですよ?」
「お昼って……え!? 今、何時ですか!!?」
 必死に時計を探す。暖炉の上にある鳩時計は……ちょうど両方の針が一番上を指していた。
 えええええええええええええええええ!!!? もうお昼!!?
「そ、そんな私何時間寝て……あ! セイさんは!?」
「セイ君ならロードちゃん起こしにいきましたよ?」
「ああああ……寝てるところ見られた……留守番を任されていたのに……」
 がくっとうなだれるソラに宵夢がぽんぽんと肩をたたき、
「大丈夫です。よだれは見られる前に拭いておきました」
「えええええええええええええええええええええ!!?」
 ソラはあわてて口の周りを袖でぬぐった。
「わ、私、よだれたらしてました……?」
「はい。ぐっすり眠っていましたよ?」
「あああああ……もうお嫁に行けない……」
「大げさですねぇ。別に恋人でもない男の人の飛空庭で無防備に眠りこけて、あまつさえよだれを垂らしながら、『もっと欲しいです……』って寝言まで言っていても、私はソラさんは十分魅力的な人だと……」
「お願い、宵夢さん……忘れて。きれいさっぱり全部忘れて……お願いします……」
「あらら? あ、セイ君。ソラさんおきましたよ」
「お、こっちも寝ぼすけがおきたぜ」
 奥から出てきたセイの後ろ、ふらふらとロードが寝ぼけ眼で現れた。
「あ、じゃ僕、飲み物の準備してきますね」
「ああ、じゃコップはこれとこれも使ってもらっていいかな。あんまりコップも数がないから……」
 セイはテーブルの上にあった自分のコップとソラのコップを宵夢に渡した。
「はい。じゃ、少し待っててください」
「あ、私も手伝います!!」
「いいですよ、お疲れのソラさんはゆっくり休んでいてください」
「あ……はぃ」
 悪気はないんだろうが、なんとなく宵夢の言葉が皮肉に聞こえて仕方がないソラだった。
 宵夢が台所にきえていき、セイがロードと一緒にテーブルのいすに座る。
「あ、あの……ごめんなさい、セイさん。留守番を頼まれていたのに……」
「アハハ、別にいいよ。特に不審者が入った様子も無かったし。突然頼んじゃったから。元はといえばこの馬鹿が、プリンが楽しみなあまり徹夜しなければこんなことにはならなかったんだけどな」
「あーうー」
 ちょこんとテーブルの上に座り、ぶすっとした表情で抵抗の声を上げるロード。
「で、お昼はピザ……なんですか?」
「帰る途中にちょうど宵夢さんがアルバイトしているピザ屋の前を通ってさ。ちょうどいいやと思って。ついでに宵夢さんも誘ったんだけど」
「なるほど……あ、あとでお金払いますから……!」
「いや、別にいいよ。知り合い価格で結構安くしてもらったし」
「でもでも、悪いですよ……私、ぜんぜん留守番らしいこともできなかったし……」
「はい、飲み物お待たせしました。食べましょうか?」
 宵夢が三つのコップをもって、テーブルについた。セイも『食べるか』と、ピザの箱を開け始める。
 あぅあぅ……なんだかこの流れ……お金を出しづらいです……
 結局そのまま昼ごはんは進んでいった。3人は最近の冒険の話などで盛り上がり、フランシーズのプリンの話へと移っていった。宵夢もプリンの事は噂で知っていたらしく、羨ましそうにしていた
 そして、ちょうど時計が3時の合図を鳴らす。
「あらら、もうこんな時間ですね?」
 宵夢が時計を見てそういった。
「ああ、まだ仕事残ってるの?」
「いえ、夕方からまた配達に行くだけですから。まだまだ余裕ですよ」
 そのとき、バン! と勢いよくドアが開く音が。
「あ、うるさいやつらが帰ってきた」
「え?」
 意味深な笑みを浮かべるセイに、?マークで首をかしげるソラ。そこに入ってきたのは、遺跡へ出かけたはずの、うひゃとめがえらだった。
「おいっすー! やっと戻ってこれたぜ!!」
「早かったな、うひゃん。てっきり、プリンを取りに来るのは明日かと思ってたよ」
「アッハッハ、俺にかかれば遺跡の探検なんて朝飯前よ……」
 自慢げに腕を組む。その後ろからひょっこりとめがえらが顔をだし、
「本当は、『腹痛いから先に帰るぜ!』って言って切り上げてきたんだよー」
「めがえらああああああああああああああ!!!!!」
 あっさりと真実をばらしためがえらを投げ飛ばし、げしげしと蹴りをいれる。
「あのー……セイさん、あの二人止めた方が……?」
「いや、めがえらさんはドMだからいいんだ」
「……セイさんもめがえらさんに酷くなってる……」
「だけど、そろそろ止めとかないとめがえらさんがどっかにぶつかりそうだな」
「そ、そうですよ! もし頭なんてぶつけたら……」
「壁がへこんだりしたら、俺が姉さんに殺される」
「…………デスヨネー」
 呆れ顔でため息をつくソラ。
うひゃの暴行はセイの制止が入ってようやっと止まった。


<後編>へ続く。
by sei_aley | 2008-09-09 00:34 | 事件編

by sei_aley