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月明かりの射す静かな庭

noblemoon.exblog.jp

ECOのフリージアサーバに生息中。現在の企画→ECO小説<運命の赤い糸>

第二話 『カイアスの場合』 前半

お久しぶりな記事に、お久しぶりの企画。


忘れてないよ……書く時間がなかっただけだよ……



カイアスというのは、ECOのハートフルマップというドラマCDのVol3の主人公の事です。ファーイーストを舞台に、聖櫃をめぐった事件のあとが、今回のお話になります。


こんな調子で、第6話まで……いけるのかな?(;´Д`)



第二話 前半 『カイアスの場合』



 アクロポリスは大きく2つのエリアに分かれている。上下に2段構造になっており、上部をアップタウン、下部をダウンタウンと呼ぶ。アクロポリスの重要機関は全てアップタウンに集中しており、ギルド元宮、アクロポリス評議会、白の聖堂、黒の聖堂……有名どころのデパートや専門店なども全てアップタウンにある事が多い。ダウンタウンはどちらかというと庶民的な構えで、冒険者達が借りるアパートもこちら側にある。
 そのダウンタウンの中央広場……色々な冒険者たちがたむろしているその場所で、剣士であるカイアスは大きくため息をついた。
 カイアスには多額の借金がある。それはほぼ全て、彼の所属するリングのリングマスターから借りたもので、その縁から彼もそのリングに所属している。
リングというのは、アクロポリス評議会が冒険者達の内情を知るために、色々な形で支援できるようにした、冒険者の集団のようなものだ。大小、数多くのリングが存在する。数百人クラスの大型リングであったり、たった五人にも満たない小さなリングもある。一昔前、たった二人のリングが有名になったこともあった。なんという名前だったろう……
「はぁ……」
 それはそれとして、いい加減に借金は返さなくては、と思っている。借金を理由にこれまでどれだけ働かされてきたことか……この前のアンデット城での一件は酷かった。何だか知らないが、大昔に封印された化け物がどうのこうのと……もうあんな、命がけの冒険なんてごめんだ。
 しかし、それぐらいの危険を冒さねば、金を稼げないのもまた事実である。ちびちびと評議会やギルドから提供される仕事をこなしていっても、結局は赤字……でなければ、借金などしない。
「はぁ……」
 もう一度、カイラスはため息をついた。目の前を行きかう冒険者たちが本当に気楽に見えた。冒険者というものはこんなにも儲からないものなのに、どうしてこんなにも多くの冒険者がいるのだろう……
 カイアスはくるりと自分の周りを見渡して……ふと、一つの看板に目を留めた。
「占い屋……レミアの店?」
 それは、占い屋のようだった。ダウンタウンの中央広場に出店しているということはそれなりに繁盛している店なのだろうか? 普段なら占いなど信じないのだが……これから先の不運が少しでも分かれば、諦めもつくだろう……と、半ば自棄な気分になりながら、カイアスは店のドアを開けた。
 店の奥には、一人の女性がいた。恐らく彼女がレミアなのだろう。黒いゆったりとしたローブに、口元を薄い布で隠している。肌の露出が極端に少ないので、年齢の程はよく分からない。
「いらっしゃいませ、カイアスさん」
「へ……?」
 いきなり自分の名を呼ばれ、カイアスは驚いた。まだ、自分の名は名乗っていない。
「貴方が来る事は分かっておりましたわ。これは運命。もうすでに、あなたの運命の歯車は回っているのですよ?」
「……??」
 レミアの言っていることはほとんど理解できなかったが……なるほど、占いは信用できる腕前……らしい。よくわからないが。
「どうぞ、お座りになって?」
 促され、カイアスは席に座った。テーブルの向こうにはレミア、二人の間には怪しく光る水晶がある。
「で、ご相談のほうですけど……」
「えっと、実は」
 カイラスは自分の借金の事を話そうとしたが……
「楽して大儲けできるお仕事でしたっけ?」
 見も蓋もない先制攻撃に、苦笑いを浮かべた。
「いや、別にそこまでは……」
「あらあら? 友人に数百万の借金をこしらえてずっと頭が上がらず、知り合いのダークストーカーさんにはいつも尻に敷かれ、この前知り合った子悪魔さんにはいいように弄ばれ……楽して大儲けでもしない限り、貴方に幸せなんて来ませんわ♪」
 にっこりと微笑むレミア。カイアスはズバズバと真実を突かれ、今にもテーブルに突っ伏して泣きそうになっている。
 そんなカイアスにレミアは薄い布の無効の口元を少しだけ吊り上げて、
「ありますよ」
 と、言った。
「え?」
「ちょうど、あなたのような暇な冒険者を探しておりましたの。実は私の知り合いで、猫の手も借りたいとご相談に来ている方がいらっしゃっておりまして」
「ひ、暇な……?」
 その時、誰かが店に入ってきたようだ。ドアが開く音がする。それは本来とても小さな音のはずだが、いまのカイアスには雷の音よりも鮮明に聞こえた。
「カイアスさん、先ほども言いましたが、これは運命。貴方がやらなければ何もはじまらないし、終わらない。がんばってくださいね……フフフ」


 アップタウンにあるアクロポリス評議会館……カイアスは初めてこの建物の中に入った。しがない冒険者でしかない自分には一生縁がない場所だと思っていた。
金髪のくせっ毛に、きちっとしたスーツに身を包んだ女性……ある議員の秘書という彼女、確か名前をウォレンとかいったか……彼女に連れられて、カイアスはその『ある議員』の書斎にまで案内された。ウォレンが、その書斎のドアをコンコンとノックすると、
「なんだと! ふざけるな、チビ議員!!!」
 と、ドアの向こうから怒声が聞こえた。
「……??」
 カイアスが不安げに眉をひそめた。ウォレンが振り向き、苦笑いを浮かべる。
「すみません、取り込み中のようです……」
「そ、そうみたいっすね……」
 しばらく、幼い少女のような声と少年……だろうか、二人の間で聞くも耐えないののしりあいが続き、十数分後、それはようやっと収まった。
「では、行きましょうか?」
 ウォレンはほとんど動じることなく、またノックをする。慣れているのだろうか……こういうことは日常茶飯事であるらしい。
「誰だ?」
 ドアの向こうから少女の声。
「アルシア様、レミアさんのところから冒険者の方を連れてきました」
「おお、ちょうどいい。入れ」
 はい。とウォレンが返事をして、ドアを開ける。そして、ウォレンは中には入らずにカイアスを部屋の中に招いた。
「あれ? ウォレンさんは行かないんですか?」
「私はまた別に仕事がありますので。頑張ってくださいね?」
「はぁ……」
 なんとなく不安感に襲われながらも、カイアスは中へと入った。意外と広い……20畳くらいはありそうな広々とした空間だった。奥の机に、一人の少女が座り、脇においてある接客用と思われるソファーにはタイタニアの少年が座っていた。どうやら、この二人が先ほど口論してた少年少女らしい。
「あ、あの……カイアスって言います。レミアさんの紹介で、仕事をもらえるって聞いたんですけど……?」
 カイアスはとりあえず畏まってそう言ってみた。風貌から、タイタニアの少年のほうは冒険者であるようだ。銀髪でちょっと目つきが悪いような気がする。少女のほうはきちっとした白いシャツを着ていて、こちらも銀髪。短くカットしているところも似たものを感じる。少年が冒険者ということは、こっちの少女がアルシア……?
「待っていたぞ、カイアス」
 少女のほうがそう言った。
「は、はぁ……えっと、もしかして、アルシアって……?」
 カイアスが目をぱちくりさせて少女を見た。すると、彼女はうんとうなずく。
「うむ、私がアクロポリス評議員、アルシア=クレッセントフィールドだ。こっちの目つきの悪いドルイドは、セイ。今回、こいつと一緒に仕事をしてもらう」
「一緒に……?」
 カイアスはもう一度、少年、セイのほうに視線を移した。
 セイは不機嫌そうにソファーに座っている。機嫌が悪いというよりは……何か考え込んでいるようにも見えた。
「詳しくはこの書類に書いてある。早速で悪いが、ノーザンへ行ってくれ」
「……へ?」
 ぱさりと、アルシアは机に封筒を置いた。
 えっと……? マジですか? ここはアクロポリスの中心、アップタウンですよ? ノーザンといったら……海の隔てた向こうの、雪に閉ざされた……
「ま、仕方ないな」
 そういったのはセイだった。大きなため息と共に立ち上がり、アルシアがおいた封筒を拾い上げる。
「……さっきの話、本当だろうな?」
 セイはカイアスに背を向けたまま、アルシアのほうを向いてそう尋ねる。カイアスには何が何だか分からないが、アルシアは意味深な笑みを浮かべて、
「真実は自分の手で探し出す。冒険者とはそういうものだろう?」
 と、言った。


 アクロポリスからノーザンへいくには、北へまっすぐと伸びる山道を行く。スノップ山道と名づけられたこの道には、多くの野犬が出る。バウと呼ばれるこの野犬はとにかく好奇心が旺盛で、通りすがるものには容赦なく近寄ってくる。初心者の冒険者でも難なくあしらう事ができるバウだが、子供が襲われることも多々あり、スノップ山道は危険な道として知られている。
 カイアスは、セイと並んでこのスノップ山道を歩いていた。ノーザンに行くということで、カイアスは茶色のコートを着込んでいる。腰にはブロードソードと呼ばれる両手剣がぶら下がっていた。
 セイのほうはといえば、厚手の黒い司祭の服を着ている。口元までかぶさったマフラーのような布は暖かそうに見えた。下はデニムの長ズボンをはいている。
「カイアスは、ブレイドマスターなんだっけ?」
 ふと、セイがそう尋ねてきた。
「あぁ、まだブレイドマスターの駆け出しみたいなものだけどね……」
 カイアスは苦笑いを浮かべながら答える。
 剣を扱う職業、ソードマン。その上位職としてブレイドマスター、バウンティハンターの2つの職が存在する。冒険者として、上位職であることはほぼ一人前として認められることが多い……と、駆け出しのころはそう思っていたのに……いざ上位職になってみると、まだまだ上には熟練の冒険者たちがひしめきあっているという事に気付かされる。
「アルシアから多少聞いたよ。借金があるそうじゃないか」
「アハハ……」
 なんだかどんどんと自分の借金が有名になっていっているような気がして、カイアスは少し頭を痛めた。
「それなら、アルシアの仕事はうってつけだな」
「え?」
「ん? なんだ、もしかして知らないで受けたのか?」
「何が?」
 カイアスが疑問符を浮かべていると、セイは少し呆れたようにため息をついた。
「この仕事の成功報酬がいくらなのか知らないのか?」
「えっと……」
 確かに、カイアスはこの仕事の報酬はもちろん、内容だってよく分かっていない。一応、仕事内容の書類が入った封筒は渡してもらったが……読んでない。
 だってそうだろ! 冒険者の仕事でわざわざ書面に仕事内容を書くクエストが何処にあるんだよ!! びっくりしたよ!!
 だが、確かに仕事の報酬は大事なことだ……楽して大儲けの仕事とレミアは言っていた……だったら……
「うーん……10万ゴールド……くらい?」
「……カイアス、お前……アルシアの前でそんな事言うなよ。本当に10万ゴールドにされるぞ」
「ええ??」
「今回の成功報酬は全部で500万ゴールドだ。俺とカイアスでフィフティーフィフティーで一人250万ゴールドになるな」
「……」
 ん? なんだろう、いま……ひどい話を聞いた気がする。
 250万? 500万? ……何の話をしているんだろう……国家予算の話か?
「セイさん、冗談はやめてくださいよぉ」
 いくらなんでも、冒険者のクエスト報酬がそんな金額……
「じゃ、カイアスは10万で、俺が490万もらっていいんだな」
「ちょっとまったあああああああああ!!!!!!!!!」
 カイアスは思わず叫んでいた。呆れた表情のセイに、ちょっと驚きの色が混ざる。
「本当なのかよ! 本当なのか!! 500万!!? 俺の借金の額と同じだぞ!」
「その年で500万の借金とは、なかなかいい人生を送ってるな」
 どこか哀れみの目のセイ。それはそれとして、カイアスは急いで自分の荷物から仕事の書類を取り出した。
「何処!? 何処にそんな話が書いてある!?」
 必死に目を血走らせて500万という数字を探すカイアス。だが、ふっとその書類が手からさっと奪われた。
「え……?」
 もちろん、書類を奪ったのはセイだった。
「カイアス。この書類は軽々しく出しちゃダメだ」
「どういう……こと?」
「なんにも分かってないみたいだな。まぁ……いいけど。とにかく、俺たちはただノーザンへいくんだ。分かってるな?」
「いや……あんまりよく分からないんですが……」
「アルシアの名前はもちろん、俺たちがギルド評議会からの回し者ってこともしゃべるなって言ってるんだ。特に、ノーザンへ入ってからは」
 そういうと、セイはカイアスに書類を返す。ただ呆然と立ち尽くすカイアス。
「……へ? どういう意味?」
 ポツリとそうこぼしたカイアスをよそに、セイはつかつかと歩き出す。
「あ、ちょっと待ってよ! おいてかないで!」
 カイアスは急いで書類をしまいこみ、セイのあとを追いかけた。
 北上を続けると、だんだんと雪景色が目立ってくるようになる。ノーザン王国は雪に閉ざされた国だが、もうこのあたりから永久凍土といっても過言ではない。だんだんと気温も下がり、寒さでカイアスは身を振るわせた。
 そういえば、北へ来るのも久々だ。前にいまのリングの仲間と一緒に氷結洞窟へ言ったっけ……あの奥はきれいな神殿になっていたのを思い出した。
 と、もうそろそろ国境の駐屯所かというところで……
「怪物だ!!」
 と、誰かの悲鳴のような声が響いた。
「……ん?」
 その言葉で一瞬セイが立ち止まる。だが、カイアスも釣られて立ち止まったときにはすでにセイは駆け出していた。
「あ、ちょっと! セイさん!!?」
「カイアス、急げ」
 それだけの言葉がかすかに聞こえ、タイタニアであるセイはさっと飛び去ってしまう。カイアスのほうはといえば、雪に足を取られて豪快に転んでいた。
 ああ、もう!! 何をやってるんだ俺は!!
 すぐに雪から立ち上がって、セイのあとを追う。
 もうセイの姿は見えない。何処へ行ったのか分からないが、駐屯所はちょっとした騒ぎになっていた。駐在の兵士がどんどんとある方向へ流れて行く。きっとセイもそちらに向かったに違いないと、カイアスが向かおうとしたとき、
「うわ!?」
 いきなり後ろから何かが突進してきて、カイラスはまた雪の上へと倒れこむ。
「ああ、すいません!」
 カイアスにぶつかってきたのは、行商人だった。ギルドから派遣されているマーチャントギルドの商人である。
「あ、いや……大丈夫。あの、一体何がおきてるんだ?」
 立ち上がりながら、カイアスは行商人に尋ねた。
「なんだか大きなモンスターが現れたとかで……私も急いでるので、これで!」
 簡潔に答えると、商人はどこか別の方向へと走って行ってしまった。
その先にはその商人の家があり、彼は家に残っているはずの娘を心配して急いでいたのだが、カイアスにそれを知るすべは無い。
「でかいモンスター……」
 こんな駐屯地の近くでそんなに大きなモンスターなど現れるものなのだろうか……
 ようやっとカイアスは駐屯所の近くでセイを発見した。そばに誰かいる……女の子だろうか?
「せ、セイさん! 大丈夫!?」
「ああ、カイアス。遅いじゃないか、俺一人で片付けちゃったぞ」
 駆け寄ったカイアスに、セイは小さくため息をついていた。その隣には、ぐったりと倒れた巨大なポーラーがあった。このポーラーが、暴れていたモンスターなのだろう。
「セイさんが早すぎなんだよ……まったく、ノーザンに行く前からこんなことに巻き込まれるだなんて……」
 幸先悪いスタートだ……最初からこんな感じでは、この先一体何が……
 と、がっくり肩を落としてうな垂れたカイアスにセイは、
「巻き込まれる……? 何言ってるんだ、カイアス。俺たちはこの事件を解決しに行くんだぞ?」
 と、言った。
「え? それはどういう……?」
 カイアスが顔を上げる。そのときにはすでにセイは駐屯所に向かって歩き出してた。
「あ、ちょっと待って! 待ってってば!」
 また、必死にセイの背中を追いかけるカイアス。
 まったく……なんかずっと、この人の羽しか見ていないような気がして、カイアスのテンションはがっくりと下がったままだった。


続く
by sei_aley | 2009-05-10 19:56 | ECO小説<夢見た白銀の空>

by sei_aley