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月明かりの射す静かな庭

noblemoon.exblog.jp

ECOのフリージアサーバに生息中。現在の企画→ECO小説<運命の赤い糸>

第四話 『セイの場合』 中篇



ネコマタ白のショートストーリーの中で、ロードがセイ君の『次元転生影響の無視』を戒める場面がありますが、その理由が明らかに。


だんだんと今回の事件の真相に迫っていきます。

今回のこの事件。


一体誰が仕組んだことなのか?

コレが一番重要なことかと思います。


セイ、アルシア、カイアス、アーリア、ゼサス……色々な人の思惑が交差しながら、最後に勝ち残ろうとしているのは一体誰でしょう……?







第四話 『セイの場合』 中篇


 セイが先頭となってクレバスの下を歩いていると、やがてノーザン中央山脈の外に出た。巨大なクレバスは山脈の外まで続いていたようだ。しばらくぶりに、ノーザンの白い空を見たような気がする。
「うわ、ここ……どこ?」
 真下に広がるのは、海だ。北の最果ての海。この向こうがどうなっているのか、それはセイも知らなかった。
「おそらく、ノーザン王国がある側の反対側だろう。こっち側は切り立った崖しかないから人は寄り付かない。おそらくここに研究施設があるんだ」
 空を見上げると、鳥が数匹飛んでいるのが見えた。そこから少し視線をずらすと……
「見つけたぞ、あそこだ」
 セイが指さす方……カイアスが視線をそちらに向けると、崖の一部に人工的なくぼみがあるのが見えた。
「……なんであんなところに?」
「おそらく飛空庭が使えるんだろう。あそこから物資と中に取り入れてるんだ、きっと」
「でも、ノーザン上空は飛空庭が……」
 確かにそうだ。ノーザン上空の気流は複雑で飛空庭が飛ぶには条件が悪い。こんな急な山肌では、海からの風が跳ね返って激しい乱気流になるだろう。
 だが、誰もがそう思うからこそ……絶好の隠れルートになることも確かだ。
 目的の生物研究所はノーザンのかなり上層部とつながっているとアルシアは言っていた。ならば、世界でも最高性能の飛空庭を使用していてもおかしくは無いだろう。
「足元に注意しろよ。落ちても助けれやれないからな」
「は、はい!」
 セイとカイアスは注意深く山肌をよじ登るようにしてくぼみに向かっていく。時折がくっとカイアスがバランスを崩すのにびくびくしながら、ようやく目的地に着いた。
 そこは飛空庭一隻がちょうど留まれる程度の空間になっており、おくには大きな扉があった。
「本当だ……本当に研究所だ」
 巨大な扉を前にして、カイアスが呆然とそんなことを言った。セイがあたりを確認してみると、確かに使われている形跡がある。こんなところにあるにもかかわらず、ツララはきれいに処理されており、金属製と思われる扉にさび一つ無い。明らかに誰かが使っている。
「……さて、はいるか」
「入るかって……ドコから?」
 扉を見上げるカイアスに、セイはその脇のほうを指差して、
「そこに人が通るための扉がある」
「ふえ?」
 カイアスはぱっと視線をセイの指の先に移すと、確かにそこに普通の扉が設置されていた。
「なんだ……このくそでかい扉を開けなくちゃいけないのかと思った」
「……あんまり恥ずかしいことは言うなよ……なめられるぞ?」
「? 誰に?」
 セイの言葉に、不思議そうな顔をするカイアス。セイは、今度は上のほうを指差した。
「監視カメラがある。もう俺たちのことはバレテいるぞ」
「なにぃ!!?」
 驚きの声と共に今度は上を見上げた。すると確かに……こちらを見るカメラが。
「カメラがあるならあるって先に……あ、ちょっと待ってよ、セイさん!」
 ふと気付くと、セイはすたすたと小さな扉のほうへと歩いていた。あわててカイアスもそれに追いつく。
 扉の前まで来たセイは、取っ手を持ってあけようとするが……当然のごとく扉は開かない。
「ど、どうするんですか?」
「カイアス。扉って言うのはな、開ける為にあるんだ」
「はぁ……」
「だから……」
 そう言って、数歩、セイが離れる。それに釣られて、カイアスも後ずさりした。
 そして、セイは懐からあのスクロールを取り出し……
「開かない扉なんて無い。鍵がかかってんならぶち破ればいいんだ」
 次の瞬間、スクロールが光り、すさまじい炎が現れた。
「うわ!?」
 ミニードゥの魔法よりすさまじい炎が扉を覆う。そして焔が消えたときには……金属製の扉はものの見事に溶けていた。
「……すげぇ」
「さぁ、いくぞ」
 セイたちは強引に開けられた扉を通って中に入る。
「……で、ドコに向かうの?」
「こっちかな」
 セイはすたすたと歩き出した。そんなセイにカイアスは戸惑いながらも付いていく。
 研究所の中はとてつもなく広いようだった。廊下をずっと歩いていくが、ドコまで続いているのか……
 やがて、セイはぴたりとその足を止めた。
「?」
 カイアスも一歩遅れて立ち止まる。すると、廊下の天井から案内板が吊り下げられているのが見えた。
「……第1研究室?」
 カイアスが書かれている文字をそのまま読む。
「どうやら、こっちみたいだ」
 セイがその案内板に沿って進みはじめる。
「……セイさんは、ここにきたことがあるの?」
 カイアスが尋ねると、セイは歩みを止めぬまま、
「いや、来たのは初めてだ」
「じゃぁ、どうして道が分かるんだ?」
「……呼んでるんだよ、俺の探し物が」
「……探し物?」
「そう……『探しモノ』」
 そうだ……約束したんだ、俺は。
 あの時、師匠から呼ばれてタイタニア界へ帰って、そのときに出会った。
 そして、約束したんだ。
 俺がお前を……
「あ、あそこが第1研究室?」
 カイアスのその声ではっとした。改めて前を見ると、『第1研究室』と書かれたプレートがつけられて扉が見える。
「ああ、ここだな」
 だんだんと、気配か近づいてくるのが分かる。
 それと同時に、またあの嫌な予感も強くなっている事に気づいた。なんなのだろう、子の胸騒ぎは……なんだか懐かしいような怖いような、不思議な違和感だった。
 研究室のドアはロックされていなかったようで、二人は中へと入った。
 そこはすさまじい量の書類で溢れていた。机の上も本棚の上も……壁にもいたるところに書類が貼り付けてあるようだった。
「な、なんだコレ……!?」
 異様な光景に、カイアスは驚きの声を上げた。
「……なるほど、アルシアの言っていたことは、ほとんど正解だったようだな……」
 セイは机の上にあった書類を拾ってそんなことをつぶやいた。
「ほとんどって……?」
「ここにあるのは全部研究資料だ。あぁ、お前は拾わなくていいぞカイアス。99%理解できないだろうから」
「……あ、はい」
「全部、魔法生物に関するもの……じゃないな、なんだコレ……こんなものまであるのか……?」
 アルシアの言葉が思い出される。
『分かったことが二つある。一つ、この研究所の連中……かなり無茶なことをやって、とんでもない成果を挙げているらしい』
「あぁ、これは確かにとんでもないことだし、かなり無茶だな……」
「……どういうこと?」
「こいつら、色々な生き物を切り刻んでくっつける研究をしているのさ」
「き、切り刻む!? くっつける!??」
 魔法生物と他の種族との細胞間の相性に関する実験報告書。
 免疫機関無効化による移植手術の影響について。
 タイタニア種族の魂のメカニズムと魔法生物の精製方法について。
 ……
「明らかにこれは……」
 セイが書類からカイアスのほうへ視線を戻すと……ぴたりと固まった。
「セイさん?」
「カイアス……ゆっくりとその場から」
「その場から?」
「逃げろ!」
「へ?」
 セイの視線の先、カイアスの後ろ……カイアスを振り返ると、そこにはいつの間にかぬっと女性の顔があった。だが……上半身は確かに女性だが、下半身は巨大な蛇だった。ラーミアというモンスターだ。モンスターだが……
「なんだこいつ!? でかい!!?」
 カイアスが知っているラーミアはもっと小さかった。上半身の女性の部分は普通だが、その下の蛇の部分の大きさは尋常ではない。普通の2倍はある。
「だから、逃げろって言ってるだろ、カイアス!」
「へ、あぅあ!?」
 セイの言葉にはっとしたときにはもう遅く、カイアスはあっという間に蛇の体に巻きつけられ、あっさりとその場に押さえつけられた。
「カイアス!!」
 退いていたセイがカイアスに駆け寄ろうとしたとき、いきなり横からすさまじい衝撃が襲った。
「な!?」
 あまりの衝撃に体が浮き、そのまま床に叩きつけられる。散乱していた書類が宙に舞った。
「ぬ……っ」
 セイを吹き飛ばした正体は……ブロックスというモンスターだった。巨大な体に一つ目の鬼……だが、こちらも普通ではなかった。腕が、異常にでかい。もともとブロックスは巨大な体躯が特徴だが、こいつはそれをはるかに上回るアンバランスさだ。
「な、なんだこいつら!?」
 カイアスの驚いた声が聞こえる。
「僕のモルモットだよ、侵入者諸君」
 答えたのは……若い青年だった。ブロックスの影から現れた男……少し間延びした黒髪に無愛想な釣り目だった。
「……誰だ?」
 セイが上半身を起こしてそう尋ねると、黒髪の青年は少しイラついたように顔をしかめた。
「勝手に人の研究室に上がりこんで無礼な奴。普通自分から名乗るものじゃないの?」
「……誰だって聞いてるんだ。早く答えろよ」
 ザワリと……その場の空気が止まった。
「……生意気なタイタニアだ」
 青年がブロックスの体をぽんと叩くと、スイッチが入ったかのようにブロックスが動き出す。
「ち……」
 セイも素早くその場を立ち上がる。が、先ほどのダメージがまだ残っているのか足元はふらついたままだ。
 まずいな、ミニードゥの自爆とクレバスへの落下のとき……少しダメージを受けすぎた。
 自爆だけならまだしも、その後に足元が崩れてカイアスがクレバスに落ちていったのだから困る。何とか彼を助けながら下に着地できたのはいいものの、その衝撃でかなり血を失ってしまっていた。
 傷なら回復できる。俺はドルイドだ。だが、失った血まで瞬時に補充することは出来ない。
「ブロックス、あんまり壊すなよ。大事な次のモルモットだ」
「ぐるぅ……」
 ブロックスがセイに近づいてくる。
 こんな体力も無いときにこんなデカブツの相手をしている暇は無い。
 セイはブロックスの脇をすり抜けて後ろの青年の方へと駆け出す。だが、ブロックスのほうも素早く、回り込んだセイをさらに回り込んで行く手をさえぎる。
「はやい……!」
「なめてもらっちゃ困る。これは僕のモルモットの中でも出来がよくてね」
 行く手を阻まれたセイは、その場に踏ん張ってまた進行方向を変えようとするが、そのときにがくりとバランスを崩し、その隙に体ごとブロックスにつかまれた。
「この……!」
 捕まれながらも、セイは杖をブロックスに向けるが、その瞬間にぐっとブロックスの拳に力が入った。すさまじい圧迫力で、魔法を唱えようとした肺の空気が全部出て行ってしまう。
「ふぅん、ここまで来るぐらいだから相当の実力かと思ったけど……案外もろいな」
「……ち」
 またセイが舌打ちする。
「まぁ、いいや。コレでも貴重なタイタニアの実験体だ。コレでアーリアの鼻を明かすことが出来るぞ」
「……何?」
 アーリア、だと……?
「アーリア……アーリア=クレスメントか?」
「ん? なんだアイツの知り合いか。コレは面白い……あの鉄のような女がどんな顔をするのか見物だな! 本当に面白いおもちゃが手に入った」
「そんな馬鹿な……彼女が、こんな馬鹿げた事にかかわっているなんて……」
「馬鹿げた?」
 ぴくりと、青年がセイの言葉に反応する。
「……あぁ、そうだ。こんな誰にも認められない方法で研究して何になるってんだ」
「ふん、凡人には何も分からんさ。僕たちの研究は世界を変えるほどすばらしい研究だ。他の生き物の優れた部分を取り出し、結合し、より完璧な生命を作り出す。コレを応用すれば、失われた人体の箇所を再生させることもできるようになるだろう。老いた部分を、若々しい肉体に変えていく事によって不老不死にだってなれる!」
「……誰でも、考えることは同じだな」
「何?」
「だから馬鹿げてるって言ってるんだ。不老不死? より完璧な生命? はっ! 夢物語だ! 空想だ! そんなものはこの世に存在しないし、存在しちゃいけないんだよ」
「……タイタニアは、誰でも知った風な口を利くから嫌いだ。ブロックス、壊れない程度に黙らせておけ」
「ぐぅ……!」
 また、ブロックスが力を込め、セイの体を握りつぶそうとする。
「く……!」
「まぁ、別に死んでもかまわないけど。どうせバラバラにするんだからな」
 く、このままじゃ本当にまずい……ここで気を失ったら終わりだ。
「タイタニアさえ手に入ればこっちのものだ……アーリアなんかに遅れはとらないぞ……あんな氷付けのタイタニアなんかより、こっちのほうが……」

 氷付けのタイタニア……?
 ああ、アルシアが言っていた。
 連中が手に入れた、連中にとって異変が起こるほど『強力なもの』。
 やっぱりそうだ……ここにあるんだ、俺の探しモノは……
 そうだ、アイツがここに……
 あの、エニア=セレラルがいるんだ!! あのクソ生意気な魔女が!!!

 セイの腕が動く。
 それは懐から何かを取り出し……次の瞬間、すさまじい爆音が第1研究室を襲った。
「馬鹿な……!?」
 青年がうめく。その隣には、腕を粉々に吹き飛ばされたブロックスが横たわっていた。
 その腕は、先ほどまでセイをつかんでいたもの……爆風で巻き上げられた書類と、淡い青色の羽根が舞う中で、セイは立っていた。その背中の羽根は、いつもの数倍は大きい……!
「馬鹿な! 在り得ない……! タイタニア界の翼だと!? 次元転生の解除!?」
 青年が驚き慌てふためく中、セイはゆっくりと青年のほうへと歩み寄っていく。だが、その歩みはどこかフラついたものだったが。
「く……ラーミア! こいつを取り押さえろ!!」
 合図と共に、カイアスを押さえつけていたラーミアが今度はセイのほうへを向かっていく。
「セイさん! 危ない!」
 カイアスの声で、ちらりとセイが向かってくるラーミアに視線を向けた。ラーミアがその巨大な体でセイを押さえつけようとするが……するりとセイはそれをすり抜け、
「邪魔をするな……!」
 ラーミアの脳天に杖を叩き付けた。その瞬間にホーリーライトを発動。ゼロ距離での、しかも脳天での光の破裂に、たまらずラーミアはその場に倒れた。
「……く、認めないぞ……」
 つぶやくように青年が言う。その手には『時空の鍵』が握られていた。
 時空の鍵。使用することで、瞬時に別の場所へと転移することが出来るアイテム。
 時空の鍵が発動し、光の粒と一緒に青年の姿が消える。
 散らばった書類とセイの羽根。それが舞う中、やっと自由になったカイアスがセイに駆け寄ると、セイはがくりと肩ひざをついた。
「だ、だいじょうぶ!?」
「ああ、大丈夫……ちょっと無理をしすぎた」
 もう、セイの羽根はいつもの大きさに戻っている。
「……今のは?」
「こいつを使ったんだ」
 セイが何かをカイアスに差し出して見せた。それは、黄色の鍵……時空の鍵だ。
「……時空の鍵?」
「そう。こいつは本来時空を操って転移させる道具だが、その時空に作用する効果を使って、次元転生を無視することが出来る」
「……?」
「……無意味だと分かっていて説明するが、エミル界、タイタニア界、ドミニオン界の3世界の時間軸は、実は微妙にずれている。この時間軸のズレのせいで、他の世界からエミル界にくると時差ぼけのような症状が出る。コレが一般に次元転生と呼ばれるメカニズムだ。つまり、自分の周りの時間軸をタイタニア界のものに合わせることで、そのズレによる酔いを一時的に直すことが出来るわけだ」
「……はぁ」
「……コレを使うと、俺は一時的に本気を出せるって訳だ」
「ほっほー、なるほど!」
 ポン! と手を叩くカイアスに、どっぷりとセイはため息をついた。
「まぁ、欠点もあるわけだが」
「欠点?」
「まだこの方法は確立された方法じゃない。『副作用』があるんだ。時間軸を強引に捻じ曲げることで魂に負担がかかる。それゆえに長い時間使っていられないし……魂に傷がつくこともある」
「……」
 こちらの深刻そうな顔から、おそらく重要なことを言ってるんだろうなというのはわかってくれているらしいが、多分ほとんど分かって無いんだろうな……
 体の傷は、魔法や医療で直せる。
 心の傷は、時間が直してくれる。
 だが、魂の傷は永遠に直らない。『馬鹿は死ぬと直る』らしいが、この傷だけは死んでも直らない。傷ついた魂はそのまま転生し、傷を残し続ける……
 ずきりと、左目の奥が痛んだ。とっさに手で押さえる……そして、その押さえた手を見ると……色鮮やかな血が付いているのが見えた。
「……」
 カイアスに気付かれないように、血をぬぐう。
 そうだ。こんなところで立ち止まっている場合じゃないないんだ。
 もうすぐそこまできているんだ、俺は……俺の探しモノの、そのすぐソバに。

続く
by sei_aley | 2009-06-24 00:08 | ECO小説<夢見た白銀の空>

by sei_aley