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月明かりの射す静かな庭

noblemoon.exblog.jp

ECOのフリージアサーバに生息中。現在の企画→ECO小説<運命の赤い糸>

第六話 『夢見た白銀の空』  前編

ついに『夢見た白銀の空』も最終話に突入であります。

多分、今年中には終わるはず……


コレが終わったら、また友人知人出演のECO小説でも書きましょうかね?(´Д`)



ふと、思うことがあります。

自分が今まで歩んできた道というものは、他の人から見てどういうものなのか?

自分の名前、自分の顔、自分の主義、自分の趣味……主観的にしか見れない『自分』というものは、果たして『世界』からみると、どんな風に見えるのでしょうか?

それはもしかしたら、ものすごくいびつで、とてつもなく悪いことをしてきたんでは……?

そういうネガティブな気持ちになるときは、とにかく『イイコト』をしておきたくなる。


免罪符というわけじゃない。
許して欲しいと乞うわけではない。

ただ、自分の中に一つでも『綺麗なもの』があれば……それだけで、明日も頑張っていこうと……また立ち上がれる気がするから。


そして今日も、同じ『毎日』を生きる。






第六話 『夢見た白銀の空』  前編


 数ヶ月前の話だ。
 俺、カイアスは、リングの仲間も一緒に、アンデット城の聖櫃を調べていた。だが、俺の失敗が元で聖櫃は瓦礫の下敷き。リングマスターのジャスパーからはこってりと絞られるし、大変な目にあった。
 だが、本当に大変だったのはそれからだ。
 ウテナ河口の海岸で助けた女性、ガーネットと一緒にもう一度アンデット城に出向くこととなり……そこでルチル、トリスと出会った。
 ルチルとトリスは、聖櫃に『メツオウ』という化け物を封印した冒険者の末裔だ。
 メツオウ。タイタニア界、ドミニオン界、エミル界を滅ぼすとされる悪魔。
 アンデット城の主であったメツオウは、ルチルたちのご先祖様たちによって封印されていたが、時が経つに連れてその封印は弱まり……俺たちがアンデット城に行った時には、メツオウは復活寸前だった。
 大変な目にあった。俺の仲間のリリスがメツオウに操られて、セレナが死に掛けた。
 最終的に、『光あるもの』の力によって封印を過去の状態に戻し、メツオウはまたアンデット城に封印された。
 この世界を滅ぼしかけた出来事は……俺たち以外は、誰も知らない。


 目を開けると、銀色の髪をした少年の顔が見えた。
「目が覚めたか? 大丈夫か?」
 少年、セイが安心したようにほっとため息をついた。
「この人が、セイさんの探しモノ?」
 ひょっこりと、赤い髪の少年が顔を出した。
「近づくなよ、カイアス。鬱陶しい」
「鬱陶しいって……ひでぇ」
 がっくりと肩を落とすカイアス。その向こうに……同じく赤い髪をした女性が立っていた。その女の人は……浮かない顔をしていた。
「……?」
「ん? どうした? エニア? 本当に大丈夫か?」
 セイが、目覚めた少女の頭をそっとなでる。だが、少女は……エニアは、不思議そうにセイの方を見つめていた。
「エニア……?」
「あの……あなたは一体誰ですか?」
「……へ?」
 エニアのぽかんとした表情に、セイの顔も唖然となった。
「セイさん……どういうこと?」
「俺が知るか……まさか……お前、自分が誰か、分かってるか?」
「……自分? 私は……?」
 額にしわを寄せ、首をかしげる少女。
 私……私はエニア? 私は……誰?
 エニアがしどろもどろとしていると、セイは、はぁ……と大きくため息をついた。
「……やっぱりな。記憶喪失だ」
「記憶喪失!?」
「まー、あんなに長い間氷の中に封印されてたら仕方ないといえば仕方ないな。おそらく一時的なものだろう。しばらくすれば徐々に記憶も戻ってくるはずだ」
「……あのえっと……ごめんなさい」
 状況はよく分からなかったが、エニアがあやまる。いいよいいよとセイが手を振った。
「仕方ないって言ったろ。それに……なんかこのまま記憶を失っていたほうが、世界的に平和な気がしないでもない」
「……?」
 よくよく辺りを見ると、そこは巨大な空間だった。上のほうに空調があるのが見える……暖房? なんだか、少し暑い気がした。
 さらに、その部屋の中央には、溶けかけた巨大な氷の塊と……その間に何か大きなものが横たわっているのが見えた。
「まぁ、それはそれとして」
 セイの声で、エニアの視線が彼に戻る。
「コレで俺たちの目的はほとんど達成された。エニアも助け出せたし……アーリアも」
 セイが、アーリアのほうを向いた。
「……」
「分かってるよな。自分たちのしていたこと。ちゃんと、向き合ってくれるよな?」
 アーリアは……こくんと頷いた。その顔は、沈んだ表情ではあったが……どこか吹っ切れたような、そんな表情をしていたように思う。
「で、セイさん。これからどうするの?」
 カイアスがそう尋ねると、セイは横たわっていたエニアを助け起こし、
「どうするって、逃げるに決まってんだろ。というか、逃げないと死ぬぞ」
「ええ!?」
「あのなぁ、カイアス。まだあんまり自分の仕事分かってないだろ。ここの連中はな、俺たちを外に出したら終わりなんだ。ノーザン兵がドンと押し寄せてこの研究所を占拠する。だから死に物狂いで……俺たちを、ここで口封じしないといけないんだよ」
「……あぁ、またあんな化け物たちと戦うのかよ!?」
「そうなる前に逃げるんだよ」
「逃げるって、ドコに!? ここはノーザン王国の反対側の絶壁の中にあったじゃないですか! どうやってノーザンに帰るんだぁ!?」
「……この研究所から、ノーザンへ直通する通路はあるわ」
 アーリアがそういうと、カイアスはおお! と顔を輝かせた。
「それだ! それを通って帰ろう!」
「んな便利な通路。とっくに封鎖しているに決まってるだろ。むしろたんまりと罠を仕掛けるはずだ」
 セイの言葉で、またがくんとうな垂れるカイアス。そんなカイアスは放っておいて、セイはアーリアのほうを向いた。
「アーリア。俺たちが入ってきた入り口があるよな。アレ……飛空庭の発着場だろ?」
「えぇ、そうよ。ノーザンからの物資は主に飛空庭で輸送しているわ」
「ふむ、ってことはおそらく、どこかに避難用の飛空庭もあるんじゃないか?」
「……あなたの勘には、本当に脱帽するわ。えぇ、あるわよ。あの発着所の隣に、異常発生時の避難用として小型飛空庭があるわ」
「よし、それを使って逃げるか」
「……アレイ」
「ん?」
「お願いがあるの……こんなことを言うのは、本当にわがままかもしれないけど」
「……なんだよ?」
「一つだけ……ここから持ち出したいサンプルがあるの」
 アーリアはちらりとだけ、エニアのほうを見た。そして、すぐさまセイのほうに視線を戻す。
「ここにおいておいたら、ノーザンの魔法研究所に持っていかれてしまう。それだけは避けたいの」
「……そんなに大事なものなのか?」
「……ダメかしら?」
 セイは……しばらく考えて……
「分かった。それを取りに行こう」
 と、言った。
「なんだか、また大回りになるなぁ……」
 カイアスが愚痴るようにそういうと、セイはポンと彼の肩に手を置き、
「何馬鹿なことを言ってるんだ? そんな大回りしている場合じゃないぞ?」
「え……でも、今取りに行くって?」
「取りに行くのは、俺とアーリアだけだ。カイアスはエニアを連れて、飛空庭を確保して来い」
「えええええ!!!? 俺一人で!!? 途中化け物に会ったら!!?」
「さっき、『俺も頑張る』と言ったじゃないか。頑張れ」
「あ、あれは、その! えっと……そんなぁ……マジで?」
「おおマジだ。しっかりエニアを守ってくれよな」
 カイアスがエニアのほうを見ると、エニアが申し訳なさそうに頭を下げていた。
 ……貧乏くじ引いたみたいなこと思ってるみたいだけど……お前のほうが安全なんだぜ、カイアス……
 ふらり……と、少しめまいがした。まだ、血が足りていないのかもしれない。
「よし、そうと決まればぐずぐずしていられない。俺はアーリアと一緒にサンプルをとってきたらすぐに出口に向かうから、それまでちゃんと飛空庭を確保しておいてくれよ」
「……分かった、がんばるよ! 頑張ればいいんだろ!!」
 少しやけくそ気味な声だったが、今はなんだかとても頼もしく聞こえた。


「……」
 セイは、アーリアと一緒に階段を下りている。カイアスたちと別れて、二人で研究所の奥のほうへと進んでいた。
 アーリアの言う、サンプルを取りに行くため……
「聞かないの?」
 ふと、アーリアが尋ねる。
「……何を?」
 それに対し、セイは足を止めることなく、聞き返した。
「……」
 アーリアが黙り……また辺りに二人の足音が響く。そんな中……セイは一つだけ小さくため息をつき、
「……聞いて欲しいなら、聞いてやる」
 と言った。
 やっぱり、この人は何でもお見通しなんだなと思った。6年前と何も変わっていなかった。
 聞いて欲しかった。ずっと……誰かに聞いて欲しかったんだ。
「あの事件のあと……私……私たちは軽いお説教で許してもらったわ。そのあと、順調に学校を卒業して、私は研究者になったの」
 貴方にまた会いたかったから……というのは、なんだか悔しくて言いたくなかった。
「でもね、そこの研究所がちょっとやばいことをやっていて……私もまとめて解雇されちゃったの。私は全然関係なかったんだけどね。でも、そのせいでまっとうな研究所にはどこにも受け入れてもらえなくなっちゃった」
 今更ながらにも、思うことがある。
 研究者などどうでもよかったではないか、と。なぜ私はそれほどまでに研究者……学者という道を突き進んでいたのだろうか?
 貴方に会いたかったから? いえ、そうじゃない。たった一晩、一緒に冒険しただけの関係だ。たとえそれが……俗に言う一目惚れだったとしても。
 私はただ単に、負けたくなかっただけなのだ。
 一度決めたことをあきらめるということは、私の中で最も嫌悪する行為なのだ。
 なぜかは分からない。負けず嫌いだから、といってしまえばそれまでなのか……
 そう……私がこの研究所で働いていた理由は……貴方に会うためなんかじゃなかった。
 だから……会いたくなかった。
「そんなときにね、ある人からスカウトされたの……君のような優秀な人材がほこりをかぶっているのは実に惜しいってね。それで、この研究所にきたってわけ」
「……」
「確かにここがやっている研究はひどいものだったわ……次々運ばれてくるモンスターや動物にメスを入れる日々が何日も何日も……でも、人間って不思議なものよね。いつごろからだったかしら……もう、何にも感じなくなっちゃった」
 でも、それ以上に魅力ある研究でもあった。
 世界最大の神秘とも言われる、命の起源に近づいているような気がしたから。
「でも……」
 でも、『彼女』が生まれてしまった。
 それは偶然だった。
 ノーザンの奥地で発見された氷付けのタイタニア。その魂の解析を、ゼサスから命じられ、アーリアはもくもくとその作業を行っていた。
 タイタニアの魂を解析することは難しい。なぜなら、解析の負荷にタイタニア自身が耐えられなかったから。だが……この少女はどんなに魂を弄繰り回そうがびくともしなかった。まるで、人形を相手にしているかのようだった。
 そして、魂の構成をコピーし……『彼女』が誕生した。
 正直、うまくいくとは思わなかった。こんな簡単に人間をコピーできていいのだろうか? 作り出した自分自身が一番驚いていた。
 今でもはっきりと覚えている。
 彼女がゆっくりと目を開けて、私のほうを見て……小さな笑みを浮かべて首をかしげた……忘れられない、私と『リタ』が初めて出会った瞬間……
「……でも?」
 ふと気付くと、目の前でセイが足を止めてこちらを向いていた。
「え? あ、え……あ、うん。でも……あの子がきてからは少し変わった気がするの」
「あの子……? あいつか、エニアか?」
「ううん。違うわ……この研究所で生まれた子よ。とはいうけど、DEMを模して作られた子だからね。人間って呼べるかどうかはわからないけど……」
 私にとっては、確かに人間で……可愛い……我が子だ。
 だから、助けてあげたい。
 ノーザンの魔法研究所に彼女を取られたら、一生暗い部屋の中で過ごす事になってしまう。いや、もしかしたらその場で解剖されてしまうかもしれない。ノーザンの連中にとって、あの子は人間じゃない。誰かが犯罪を犯して作ってくれた実験体なのだから。
「もしかして、これから取りにいくサンプルって言うのは……」
「ええ、その子。我侭なものよね。コレだけ好き勝手しておいて、自分の一番大切なものだけは守りたいなんてね」
 でも、守りたい。
 そのためなら……私は……
 アーリアが、セイを追い越して階段を下っていく。
「……」
 セイは少しだけ厳しい表情をして、そのあとをついていった。


「そんな……!」
 研究所の最下層。特に研究所内の危険生物を保管している場所……そのさらに一番奥に、彼女がいるはずだった。
 だが……その牢はばっさりと真っ二つに切断され……中には誰もいない。
「どうして、こんなことありえない……!」
 アーリアが牢の中へと入って、中にいたはずのサンプルを探し回っている。セイは切断された牢の鉄格子を拾い上げた。
「ノーザンの最高級断魔力金属に、6属性干渉型魔法結界か……コレなら、あのクソ生意気なチビ議員でも閉じ込めておけそうだな」
 この金属を、無駄な破壊をせずに一刀両断できるだなんて……とんでもない力だ。ここから逃げたサンプル……アーリアの言う『あの子』とやらはもしかして……
「アレイ……どうしよう!? どこにもいないわ!」
「おちつけ、アーリア。牢から逃げれたって言ったって、この研究所から早々出られないはずだ……」
「そ、そうね……とにかく辺りを……」
 そのとき、ジジ……というスピーカーの音が聞こえた。
 そして……
「ハッハッハ、何を探しているのかね?」
 少ししゃがれた、男の声がどこかにあるらしいスピーカーから流れた。
「……ゼサス院長」
「君達の探しものなら私があずかっているよ。そうそう、あの冴えない少年とタイタニアも一緒だ。第3実験場に来たまえ。アーリア、場所は分かっているね?」
 やられた。リタだけじゃなくてあの二人も捕まってしまっていたのか……
「再会できるのを楽しみに待っているよ……『白銀』。」
 そこで、放送はぶつりと切れた。
「アレイ……ごめんなさい、こんな事になっているなんて……」
 あれ? 今、何か……ゼサス院長が変なことを言っていたような……
「ゼサス……クロークマン=ゼサスか。やっぱり奴が絡んでいたか」
 セイは、知らないはずの院長のフルネームを苦々しく口にした。
「アレイ……ゼサス院長を知っているの?」
 ゼサス院長もノーザンの人間のはずだ。だから、外部のセイとつながりなんてあるわけが……いや、違う。だったら、私とのつながりだって無いはずじゃないか。
「おや、言ってなかったか?」
「……」
 そう、つながりがあるとすれば……『あの時』しかない。
「俺とお前が出会った6年前。俺のネコマタをさらったノーザンの研究員の……上司だった男だ」

続く
by sei_aley | 2009-08-29 11:11 | ECO小説<夢見た白銀の空>

by sei_aley