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月明かりの射す静かな庭

noblemoon.exblog.jp

ECOのフリージアサーバに生息中。現在の企画→ECO小説<運命の赤い糸>

蒼い剣の正義 <第一話 前半>



ようやっと一話目ってことで……全体のストーリーは全部出来上がってるんで、中間発表が終わればそれなりにスピードが上がると思われます。

そして、もちろん全部入らなかったので、一応分割で……








第一話 『名前』



アクロポリスシティから真南に進むと、ウテナ河口から海岸線に出ることが出来る。アクロニアポリスを囲う平原から出れば景色は一変し、岩と砂だらけの景色……その向こうには広い海岸線と、うっすらと島のようなものが見える景色が広がる。
 そんなウテナ河口の砂浜に、4つの人影があった。
「……えっと、もう……集合時間ですよね?」
 冷や汗をたらしながら、金髪のウエーブがかった髪の女性が懐中時計を見ながらつぶやく。
「……」
「……」
「……」
 その女性の前にいるのは……3人の少年少女。
 金髪の女性の質問だか独り言だかわからない声に、3人は黙っている。
「あははははは……この時計、時々壊れちゃうことがあって……あははははは」
「残念だけど、その時計合ってるよ」
 女性が見せた懐中時計に、自分の懐から出した懐中時計を見せ返してそう言ったのは、少し目つきの悪い銀髪の少年だった。緑色のローブに身を包み、その背中からは白い羽がゆらゆらと揺れている。いわゆる天使の風貌をした……タイタニアと呼ばれる種族だ。
「……ですよね」
 それに続いて口を開いたのは、少年の隣にいた黒髪の少女。おどおどと自分の時計を見ている。時々ちらちらと顔を上げて、女性のほうを見ていた。
「そ、そんなぁ……なんで3人しか集まってないの!? 登録人数は50人なのに!!」
 がばっと頭を抱えて叫んだ女性……アクロニア評議員アルシアの第一秘書であるウォレン=カタフは、そのままガクッと砂浜の上に崩れ落ちた。
「なんでって……っていうか、あんたがここにいることのほうが俺は不思議だよ」
「……へ?」
 少年の言葉に、崩れ落ちたまま顔を上げるウォレン。少年はため息をついて、一枚の書類を彼女の目の前に差し出した。
「これ、あんたが作った定期討伐隊募集のやつだろ?」
「確かにこれは私が作ったものですけど……」
「……この決行日時が、一ヶ月先になってる」
「……え?」
 少年から書類を奪い取って、その文字を凝視するウォレン。
「ええええ!!!!!!? 本当だ!! 一ヶ月先になってる!!」
「毎年の討伐隊は今日行われるって聞いてたから、おかしいなと思って暇つぶし程度に来てみれば……まさか本当に間違えてたなんて……」
 呆れ顔の少年に対して、ウォレンの顔はどんどんと青ざめていった。
「ど、どうしましょう……? 評議会のほうには今日決行って言っちゃったし、一ヶ月も報告書が遅れたらアルシア様に殺されちゃう……」
「いや、俺に聞かれても……」
 うっすら涙さえ浮かべて、少年にすがりつく。あまりの迫力に後ずさりする少年だったが、それでもウォレンは離さない。
「……50人分の報酬くれる?」
 ふと、少年の後ろから声がした。
「へ?」
 同じような声を出して、少年とウォレンが同時にその方を向いた。黒髪の少女も、もう一人の少女のほうを見ていた。
 栗色の髪をショートカットにした、少女にしては少し大人びた顔立ちだった。その腰には鞘に収められた青色の柄が見える……
「私が50人分の討伐をしたら、50人分の報酬をくれるのか? って聞いたの」
「え、えっと……いや、でも……」
 いきなりの発言に、戸惑うウォレンに対して、少年のほうが大きくため息をついて、
「それでいいんじゃない? 『俺たち3人』で、50人分働けば、そっちもそれなりの報告書は書けるだろ? 俺たちで足りなきゃ、一ヵ月後にどうせ人が集まるんだし」
「は、はぁ……」
 しぶしぶながら、納得した様子のウォレン。
 かくして、たった3人だけの討伐隊が始まった……


「私の名前は、神埼永久奈(かんざきとわな)。ファーイーストシティから最近アクロにやってきたマーチャントです。よろしくお願いします」
 黒髪の少女、永久奈がぺこりとお辞儀をしつつそう自己紹介した。
「俺はセイ。よろしく」
 銀髪の少年もそう名乗り……二人は、残りの少女のほうに視線を合わせる。
「……何?」
 その二人の視線を、たった二文字で返す。
「いや、自己紹介。一応俺たちは討伐隊の仲間……」
「別に。私はもともと一人でやるつもりだったし……関係ない」
 そう言うと、すたすたと進んでいってしまう。セイは、ふぅと一つため息をついた。
「……せっかく手伝ってやろうと思ったのに」
「なるほど! あの人を助けるために3人でって言ったんですね」
 おお! と手をぽんと打つ永久奈。セイは苦笑いを浮かべつつも、
「ごめんね。なんか……巻き込んじゃったみたいで」
「いえいえ! いいんですよぉ。アクロに着たばっかりで私も何がなんだか良く分かってないし……このまま町に戻ってもやることないですから」
「あれ……そういえば永久奈さん、日時が間違ってたのによく今日来たね?」
 ふとそんなことが頭をよぎり、永久奈に聞いてみる。彼女は、少し恥ずかしそうに
「ああ、単に間違えただけです」
「え゛……?」
「私、そそっかしいところがあるみたいで……あの書類に書いてある日時が今日だと思ったら……」
 あははと笑う永久奈。
「マイナスにマイナスをかけるとプラスになるって言うのはこういうことなのか……」
「何か言いました?」
「い、いや別に……」
 名前も名乗らない無愛想な女剣士に、日時を一ヶ月も間違える田舎者のマーチャント……こんな二人と、本当に50人分の働きが出来るのか……
 そんな不安を抱えながら、とにかくセイと永久奈も砂浜を歩き始めた。
「えっと、あの秘書の話だと……フライフィッシュを狩ればいいんだな」
「ふらいふぃっしゅ?」
 セイの言葉に、きょとんとした顔で聞きかえす永久奈。
「フライフィッシュも知らないのか……エミルの人なのに?」
 思わずそう聞いてしまう。セイのようなタイタニアは特別な事情で、故郷である別世界からこのエミルの世界にやってくる。それゆえにエミル世界のことは疎いタイタニアも多い。
「あ、いや……私、ずっとファーイーストにいたものですからその……この辺のことは本当に知らなくて」
「ふぅん……そういうものなのか」
「ファーイーストのことなら任せてください!」
「あはは……ファーイーストに行く用事があったら、案内してもらおうかな……ああ、あれだ」
「へ?」
 セイが指差す先をみると……魚の姿をした生き物が……背中の羽を使ってふわふわと浮いていた。
「飛べる魚。だからフライフィッシュ。あれを狩ればいいんだ」
「へぇ、魚って飛べるんですねぇ」
 ポツリと言った永久奈の一言に、『魚は普通飛べないから、飛べるあいつらが特別にフライフィッシュって名前なんだよ』と訂正しようか迷ったが……そんなことを考えてる隙に永久奈は手にした棍棒を振りかざして、フライフィッシュに突進していた。
「ちょ! いきなりか!」
「とりゃあああああああああああ!!!!」
 がつん!! と思いっきり振り下ろされた棍棒にはじかれて、フライフィッシュは砂浜の上に沈黙した。
「やりました、セイさん!!」
「あ、ああ……」
「じゃ私、どんどん狩って来ますね!」
 そう言って、先ほどの少女剣士のように永久奈は棍棒を振り回しつつ走り去ってしまった。
「……まぁ、フライフィッシュを一確出来るんだから放っておいても大丈夫だよな……」
 そして、セイも自分の杖を取り出し、フライフィッシュを狩りつつ進んでいった。


 アクロニアとサウス連邦をつなぐウテナ河口。
 それゆえ、行商人や軍関係者がここを通って物資を運ぶことも少なくない。だが、フライフィッシュなどのモンスターに阻まれ、時として大きな損害をこうむることもある。それゆえに評議会が冒険者を募って討伐隊を編成し、フライフィッシュ『など』を討伐する。
 これが今回の討伐隊の意味である。このような事例は別にウテナ河口に限ったことではない。安全地帯とも呼べるのは、この辺りではアクロニア平原くらいなもので、そこを抜ければ意外と危険は多い。特に北のノーザン地方は気候条件も相まって、中央のアクロポリスとのパイプラインは驚くほど細い。独自に魔法研究を行っているノーザン王国はアクロポリス評議会の頭痛の種でもある……
 そして、このような討伐が冒険者たちの有効な収入源であることもまた事実だ。この収入源を断たれると生きていけない冒険者も多い。
生きるために狩を行う。
これは生きるものとして当然のこと……
「……何?」
 一通りの狩りを終え、岩に座っていた先ほどの栗色の髪の少女が、ふと閉じていた目を開けてそう言った。
「いや、もしかしてサボっているのかなと思って」
 ざっざっざ……と、砂を踏みしめながら現れたのは、セイだった。その口に、ぽいっと飴のようなものをほうりこんで、なめ始める。
「……もう終わった」
 そういいながら、セイのほうへ何かをどさっと放る。袋に入ったそれをセイが確かめると、今セイがなめている飴と同じようなものがたくさん入っていた。
「全部拾ったんだ? 結構几帳面だね」
「討伐の証拠になる」
 フライフィッシュの体内には、時折飴に似たものが入っていることがある。味も普通ののど飴のようなもので、栄養もたっぷりと含まれているのだ。
「本当に一人で50人分働くなんてねぇ……がんばってる(らしい)永久奈さんには悪いけど、俺たちは邪魔者だったかな?」
「ふん……」
 不機嫌そうな顔はそのままに、セイから視線をそらして海のほうを向く。だがそのとき、ちょうど強い風が吹いて、巻き上がった砂が思いっきり顔にかかってきた。
「うわ、むぅ……!」
 目に入ったらしく、痛そうに目をこする少女。
 それを見て、クスクスとセイが笑った。
「そろそろ、名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃない?」
「……」
 まだ目をこすりながら、セイの方を見る。そして、また数度目をこすって、
「あんまり、私に関わらない方がいい」
 とだけ言って、また目をそらした。
「え?」
「私に関わると、不幸になる」
「……は?」
 まだセイがきょとんとした表情になると、少女のほうも少し困ったような顔になった。先ほど砂が目に入ったせいか、少しだけ赤くなっている。
「この討伐隊もそう……結局こんなことになってる」
「いや、これは……」
 どう考えてもあのドジな秘書のせいだと思うが。
「とにかく……どうせこの討伐が終わればまた赤の他人……名乗る必要も……」
 そのとき……ふと何かの違和感がした。何か……聞こえる。
 二人ともその違和感に気づいたのか、顔を見合わせた後に、辺りをうかがった。
「……まさか」
 ふと、セイがそうこぼす。ひたりと止まったセイの視線の向こう……少女も気づいてそちらを伺うと……何かが粉塵をあげながらものすごいスピードでこちらに向かってきているのが見えた。
「きゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
 だんだんとはっきり聞こえてきたそれは……悲鳴だった。しかも、先ほど別れた永久奈のものに間違いない。そしてうっすらと見えてきた人影も、永久奈のものだ。
「何やってんの、あの子……」
 あきれながら少女がそう言った。永久奈の後ろに……大量のフライフィッシュの群れが見えたのだ。
「フライフィッシュは攻撃されると仲間を呼ぶ習性があるって教えるの忘れてたな」
「それにしたってあんな大群を作るほど致命的な状況になるの?」
「そんなこと俺に聞かれても。助けた後に永久奈さんに聞いてよ」
 やがて、逃げていた永久奈がこちらに気づいたらしい。少しだけ笑みを浮かべたのが見えた。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
「もう何言ってるのかぜんぜんわからんね……」
 アハハと苦笑いを浮かべながらセイは杖を構え、少女も岩から飛び降りて鞘から剣をすらりと抜いた。太陽の光を浴びて鈍く光る……青い刀身をもつ両手剣『太刀』だ。そして、ちらりとセイの方を見て、
「手助けしたほうが?」
「お気にせずに。そっちこそ、ヒールは必要?」
 ふっと笑いながら言い返したセイに、少女のほうも少しだけ口端をあげて答えた。
「お気にせずに……あ」
「ん?」
「ほら……私に関わって不幸になった」
 どこか少し自慢げにそう言う少女に対して、セイも得意げに、
「この程度を不幸って言うほど、やわな実力じゃないよ」
 と言い返す。
 そのとき永久奈が二人の元に到着し、そのままバランスを崩して倒れこんだ。どうやらかなりの距離を走ってきたらしく、もう言葉を発する余裕は無いようだ。
「……もう、ダメ……はぁはぁ」
 あ、言葉を発した。
 だが次の瞬間、大量のフライフィッシュが迫ってくる。その群れの中に、まず少女が飛び込んだ。一瞬にして標的を少女に向けるフライフィッシュたち。だが、少女に攻撃しようとした瞬間にどこからとも無く振り下ろされた太刀によって次々と叩き落されていく。叩き落した太刀の刃は流れるように空中を舞い、次のフライフィッシュへと吸い込まれるようにして振り回されていく。
「なるほど、強い」
 セイも少女の動きに感心しながら、杖の先端を遠くで様子を伺うフライフィッシュに向け、
「ホーリーライト!」
 と叫ぶと、強い光が杖の先端から生まれ、すさまじいスピードで狙いをつけたフライフィッシュを叩き落した。
「ホーリーライトで一確……なるほど、強い」
 フライフィッシュと戦いながらもセイの姿を確認し、つぶやくように少女が言った。
 やがて……すべてのフライフィッシュが地面の上に横たわった。
「ふぅ……これで70人分くらいは働いたね」
 セイがそういうと、剣を鞘に収めつつ少女がふっと笑う。
「70人分の報酬、楽しみ」
 はははとセイが笑い、倒れていた永久奈を助け起こした。
「大丈夫?」
「は、はい……お二人はとっても……強いんで……うう、気持ち悪い」
 思いっきり走ったせいなのか、今にも吐きそうである。
「あんまり無理しないで……ヒーリング」
 セイが手をかざすと、ふわりと優しい光が生まれる。その光に当たると、永久奈は全身を襲っていた疲労感と吐き気がだんだんと薄らいでいくのを感じた。
「セイさんは……ウァテスだったんですね」
 ウァテスとは光の力を使って傷を癒すことが出来る職だ。先ほどのようなホーリーライトと言う攻撃術も使えるには使えるが、他の魔法に比べて威力は小さい。むしろこちらの癒しの魔法のほうが主力武器だ。
「いや、俺が着てるのウァテスローブなんだけど……まぁ、いいや」
「まぁ、とにかくアクロに戻って報告を……」
 永久奈の介抱をしているセイに少女がしゃべりかけたとき……ふっとその場が暗くなった。
『?』
 三人が同時に上を見上げる。青い空……急に曇ったわけではないが……空の半分が巨大な影にさえぎられて見えなかった。
「……これは、不幸かも」
 ポツリとセイがそう言う。見上げた先にいたのは、巨大なブリキングだった。すでに腕を振り上げて……
「逃げろ!!」
 少女の声とともに、セイは永久奈を抱えてその場を飛ぶようにして離れる。次の瞬間、ブリキングの巨大な腕が振り下ろされ、豪快に砂を巻き上げた。
「な、なななな、なんですかあれは!」
 セイの腕の中、おびえた声で永久奈がブリキングの影を指差して叫ぶ。
「それよりも……」
 あの少女は? そういいかけたとき、巻き上げられた砂の中から少女の姿が現れた。振り下ろされた腕を飛んで避けたらしい。そのまま鞘の剣を抜き放って、ブリキングの顔にたたきつけた。
 ソードマンの基本技の一つ、居合いだ。
 がちん!!!!! という金属同士がぶつかる大きな音が響く。が、ブリキングはびくともせず、頭をふるって少女を弾き飛ばした。
 そのまま少女はセイの近くに着地。
「この剣じゃ、ダメージは与えられない……」
 剣を見れば、少しだけだがブリキングとぶつかったときに欠けたと思われる刃こぼれがあるのが分かる。
「ってことは……」
 セイと少女は顔を見合わせて……こくんと同時に頷いた。
「え……?」
 展開についていけていないのか、一人呆然としている永久奈。そして次の瞬間、永久奈はセイの腕の中から少女の肩の上へと担ぎ上げられた。
「ホーリーライト!」
 セイが、ブリキング……ではなく、その下の砂浜に向けて魔法を放つ。すると、先ほどの数倍の砂があたりに撒き散らされ、ブリキングの視界を封じた。
「入り組んでいる岩山地帯に逃げるんだ。少しぐらい時間を稼ぐ」


-後半に続く-
by sei_aley | 2007-08-06 12:29 | 1話 前半+後半

by sei_aley