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月明かりの射す静かな庭

noblemoon.exblog.jp

ECOのフリージアサーバに生息中。現在の企画→ECO小説<運命の赤い糸>

蒼い剣の正義 <第一話 後半>




後半分です。

太刀の装備レベルは確か40でしたよね。一次職のソードマンレベル40なら、ウァテスと組めばブリキングマーク2ぐらいは倒せる……? まぁ、その辺はご愛嬌で(;´Д`)




第一話 『名前』


 ウテナ河口の海岸線の近くには、巨大な岩が数多く露出している部分がある。そこにはサンドクローラーやバウなどが生息し、時折ブリキングと呼ばれる機械仕掛けのモンスターも徘徊していることがある。
「じゃぁ、あのブリキングは、もともとマリオネットだったんですか……?」
 地面から露出した岩肌の陰に隠れていた永久奈は、少女からブリキングについての話を聞いていた。少女はふぅ……と息をつきながら岩肌に寄りかかり、
「人を襲うようになったブリキングはたいてい何かのトラブルで故障したものだね……この辺をうろついてるのも多分そう……」
「ということは、あの大きなブリキングも?」
「あれぐらい大きなブリキングだと……たぶん鉱山か何かでトンネルを掘るとか……結構大掛かりなところで使われてたんだろうけどね……」
 はぁ、と大きくため息をつく。
 あのごたごたで、結局セイとははぐれてしまった。さすがにウァテス一人でブリキングとやりあえるとは思えないが、逃げるぐらいならできるのだろう……多分。
「セイさん……大丈夫でしょうか……」
 永久奈もうなだれて、ポツリとそんなことをこぼす。
「……」
 さすがに探しにいくぐらいはしたほうがいいか……と、少女が岩陰から辺りを覗おうと顔を出すと……
「……!」
 すぐさま、また岩陰に隠れた。
「……? どうしたんですか?」
 同じく顔を出そうとした永久奈を、少女が制する。
「しー」
 隠れている岩の向こう側……その向こうに、あのブリキングの姿があったのだ。
 もうこんなところまで来ているなんて……意外と足の速いのか……
 だが、ブリキングは故障が原因で人を襲うようになった。それゆえに、探知センサーもいかれてる場合が多い。もうしばらくここでじっとしていれば通り過ぎるはず……
「ワン! ワン!」
 さーっと、血の気が引いたのが嫌というほど実感した。
 声を発したのは、この辺りに生息しているバウだった。今もなおワンワン! とこちらに吼えかけている。何もこんなときに出てこなくても!
「!!??」
 永久奈のほうはまだ状況がわかっていないのか、不思議そうな顔でバウを見つめ……
「うるさい」
 バシンと、棍棒でバウを黙らせた。
「あんたの性格……ちょっとわからないわ……」
 呆れ顔で永久奈を見つめる少女……って、そんなことをしている場合ではない!
「……」
 もう一度、顔をのぞかせて向こうに居るブリキングを見る……
「……」
 視線が合った。
 あまつさえ、こちらに方向転換しているではないか!
「見つかったか」
「え……?」
 永久奈も顔を出す。彼女の目にもすさまじいスピードで迫ってくるブリキングが見えたようだ。
「も、もしかして……私のせい?」
 ものすごい不安げな顔で少女を見上げる永久奈。少女は、こつんとその額をたたいて、
「いいから、ちゃんと逃げるんだよ?」
「え?」
 どういう意味ですか? と問う前に、少女は岩陰から飛び出していた。
「ガガガガ!!!」
 それを確認したブリキングが飛び出した少女のほうに向く。
「そんな……」
 少女はブリキングの振り回す腕を巧みにかわしながら斬撃を食らわせているが、どれも効果があるようには見えない。しかし、どんどんと永久奈の居る岩陰からブリキングが遠ざかっていることだけは確かだ。
「逃げなきゃ……」


 勝算は、まぁ無いだろう。
 それほど経験をつんだわけではないが、なんとなくそんな感じがする。ウァテスなら回復魔法で時間を稼ぎながら逃げ切ることができるかもしれない。だが、剣を扱うことしかできない自分は、実力のスペックで劣る相手には一方的にやられるしかない。
 スピードでは確かに自分が勝っているが……攻撃力が、致命的に足りない。いつまでも致命打を与えられなけばそのうち……
「う……!?」
 疲労のたまってきた足が、地面の砂に取られた。砂浜から離れてきたとはいえ、まだ地面は細かい砂粒……砂漠のようなものだ。
 そんな場所を全力に近い速さで走り回れば、疲労は普通の地面の何倍にもなって襲ってくる。
 バランスの崩れたところに、薙ぐようにしてブリキングの腕が振り回され……少女の体を弾き飛ばした。
「きゃ!」
 数メートルほど空を飛び、さらに数メートル砂の上を転がる。服の隅々から砂が入ってきて、汗と混じってじっとりと肌に張り付くのが分かった。
「ぐ……」
 倒れた体を起こそうとするが、頭がくらくらしておぼつかない……さらに、何とかガードにまわした右腕もジンジンと……もう落ちた剣を拾うことさえできそうに無かった。
「もう少し……やれると思った……けどな」
 すぅっと、地面が暗くなる。目の前にはブリキングの姿……奇妙な電子音と歯車の回る音がなぜかはっきり聞こえた……
 ここで終わりか……案外あっけない最後だと、我ながら思う……
 やり残した事がひとつだけあったけど……ここで死ぬのならそれも……
「やめろぉお!!」
 諦めかけていた脳の機能が、ばっと急にたたき起こされた。
 声のしたほうを見ると……そこには永久奈が立っていた。泣きそうな顔で、遠くからでも分かるぐらいに震えているのが分かる。その手には……先ほどの棍棒だけ。
 馬鹿……逃げろって……
 声に出そうとしたが、腹部がずきずきと痛んで声が出ない。
 ブリキングはゆっくりと永久奈のほうに向く。ひっと、永久奈が一歩あとずさった。
 どんどん近づくブリキング……そして腕を振り上げ……
「……!」
 恐怖のあまり目をきつく閉じる永久奈。だが……いくら待っても何も来ない。
「……?」
 ゆっくりと目を開けてブリキングを見上げると……彼女の目の前でブリキングは機能を停止しているようだった。もう、電子音も歯車の音も聞こえない。
「……どう、して?」
 永久奈の口と、少女の口から同じ言葉が漏れる……そして、少女の方があることに気づいた。
 ブリキングの背中に、金色に光るものが見えたのだ。
「間一髪だったね、みんな」
 その『金色に光るもの』がそう言葉を発した。
「せ、セイさん!?」
 永久奈が叫ぶように言うと、ブリキングの背中から『金色に光るもの』がひょっこりと地面に降りてきて……
 きらきらと光る粒に囲まれたかと思うと、その光の中から緑のローブを着た、あの目つきの悪い少年が現れたのだ。
「マリオネット・ベリル……?」
 ゆっくりと、やっと立ち上がれた少女がセイに近づきながらそう言った。
 この世界には、マリオネットと呼ばれる魔法の道具があり、そのマリオネットに変身してその力を使うことができる。
 セイの使ったマリオネットは、ベリル。使用できる魔法は、一定時間姿を消すことのできる『インビシブル』。
「でも、どうやってブリキングを……剣でも切れないのに」
「ブリキングはもともとマリオネットやゴーレムとして作られたものが、何かのトラブルで暴走したものなんだ」
「それは……聞きましたけど……」
 ちらりと少女のほうを見る永久奈。彼女がふらついているのを見て、慌てて駆け寄って肩を貸した。
「人が作ったものなら……絶対に『あるもの』がある」
「『あるもの』……?」
「停止ボタンさ」
「あ……」
 確かに、人が使うために作ったものなら絶対にある……とめられない機械など、最初から暴走しているようなものだ。
「時々、その停止ボタンも壊れてるのがいるけどね……こいつはまだとめることができたみたいでよかったよ」
 アハハと笑うセイ。永久奈も安心したのか、つられるようにして笑みを浮かべた。
 そして、セイは少女にヒールをかけながら、
「早く、町に戻ってちゃんとした治療をしないとね」
「……最初っから、ベリルを使って停止ボタンを押すつもりだった?」
「……そ、そうだけど?」
「……」
 ギロリと睨む少女に、なぜか慌てるようなそぶりで半笑いを浮かべるセイ。
 永久奈が、その二人の間で不思議そうな顔を浮かべていた。


「ほほう、あのブリキングまで討伐してくるとは……頼んでもいない仕事もこなすとはさすがだな」
 アクロポリスアップタウンにある、評議会館のアルシアの一室……ウォレンの持ってきた報告書に目を通して、机に座っていたアルシアは皮肉めいた感心の声を上げた。
 そして、そのアルシアの部屋の窓からアップタウンの町並みを見下ろしているのは……セイだった。
「まったく、あんたのところの不思議秘書は何やってるんだ? 日にちのことを聞いてなかったら本当に一ヵ月後に行ってたぞ」
 セイはあきれた声でそう言うと、ふっとアルシアが笑う。
「まぁ、何とかなったからいいではないか。終わりよければすべてよし」
「二人死にかけたんだが……?」
 アルシアのほうを振り返り、睨む。アルシアはひとつだけため息をこぼして、
「……ああ、悪かった悪かった。ウォレンにはあとできつくお灸をすえておくから勘弁してくれ」
「報酬はちゃんと50人分と、ブリキングの分も上乗せしてもらうからな?」
「払うのはこのアクロポリスの税金からだ。好きなだけもっていけ」
「……あんた、そのうち絶対に痛い目を見るぞ」
 肩をすくめるアルシア。セイもため息と共に肩をすくめる。
「……それで、今回の討伐に来ていた……アレア=レフィスという少女だが……」
「アレア?」
「こいつだ」
 アルシアが、セイに写真を差し出す。それを受け取って見ると……そこにはあの栗色の少女の顔が写っていた。不機嫌そうな顔をしている。
「ああ、この人……この人がどうかした?」
 ふと思い浮かべる、写真と同じ不機嫌そうな顔。そんな顔しか出てこないことに、少しだけセイはおかしくなって笑みを浮かべた。
「……まぁ、いい。今回はご苦労だったな。また近いうちに仕事をまわすかもしれんから、アクロポリスから離れるなよ?」
「仕事もいいが、ちゃんと『あの事』も調べてくれるんだろうな? そう言う約束だぞ?」
「いくらアクロポリス評議会でもそれなりに限界はある。調べてはいるから気長に待ってろ」
「……」
 もう一度、窓の外を見る。アクロポリスのアップタウンの光景……この下には、さらにダウンタウンと呼ばれる町がある。多分、あの栗色の髪の少女もダウンタウンにいるはず……
 この討伐が終われば、また赤の他人……名乗る必要はない。
 そう彼女は言った。
だが……セイもアレアの名前を知り、アレアもセイの名前を知っている
 この世界の出来事すべてに意味があるというのなら……この事実もまた……
by sei_aley | 2007-08-06 12:32 | 1話 前半+後半

by sei_aley